給付開始日と退職日が同じ月の傷病手当金|返金額の計算方法を解説

給付開始日と退職日が同じ月の傷病手当金|返金額の計算方法を解説 傷病手当金

傷病手当金を受け取りながら退職した月に、「給付調整で傷病手当金が減額された」「一部返金を求められた」という連絡が届いて混乱した経験はありませんか?

給付開始日と退職日が同じ月に重なった場合、健康保険法の規定により傷病手当金と給与の「併給調整」が行われます。その結果、すでに受け取った傷病手当金の一部を返金しなければならないケースがあります。

この記事では、給付調整の仕組み・計算式・返金額のシミュレーション・申請手順を具体的な数字を使って解説します。退職前に必ず確認しておきましょう。

傷病手当金の給付調整とは|退職月に起こる給付制限

比較項目 給付開始日と退職日が異なる月 給付開始日と退職日が同じ月
傷病手当金と給与の関係 併給調整なし 併給調整あり(給付減額または返金)
給付調整が適用される ×
返金対象となる給与 該当なし 当該月の実支給給与額
計算方法 単純に傷病手当金を受給 日数按分で減額額を算出
個別対応が必要か 不要 必要(返金手続きなど)

傷病手当金と給与の「併給禁止」原則

傷病手当金は「病気やケガで仕事を休み、給与が支払われない期間の生活保障」を目的とした健康保険の給付です。この目的から、給与が支払われている期間は傷病手当金と重複して受け取ることができません

法的根拠は以下の通りです。

根拠法令 内容
健康保険法 第99条 傷病手当金の支給要件(療養中・就労不能・給与支払なし)
健康保険法 施行規則 第75条 給付調整の具体的な計算方法・控除規定

つまり、給付開始日と退職日が同じ月に重なると、その月の給与と傷病手当金が両方発生する期間が生じるため、法律に基づく調整が必ず入る仕組みになっています。

「給付開始日と退職日が同じ月」が調整対象になる理由

たとえば次のようなケースを想定してください。

給付開始日:2025年1月15日
退職日  :2025年1月31日

この場合、1月1日〜14日までは給与が発生し、1月15日〜31日は傷病手当金の給付対象となります。しかし実際には、多くの企業では月末締めで1月分の給与(基本給・残業代・各種手当)がまとめて支払われるため、給与と傷病手当金が同じ月に重なる状態が生まれます。

この重複を解消するのが「給付調整」です。

給付調整が起こる状況|いつ・誰に適用される?

適用される対象者の要件

給付調整の対象になるのは、以下の条件をすべて満たす方です。

✓ 退職前に健康保険の被保険者であった
✓ 療養のため就労が不能であった
✓ 給付開始日(傷病手当金の最初の受給日)が
  退職日と同じ月に含まれる
✓ 給付開始日より前に給与が発生している
✓ 退職後の継続受給資格は別途判定が必要

ポイント:退職後の傷病手当金の継続受給は「退職日以前に1年以上の被保険者期間がある」「退職日に傷病手当金を受給中または受給できる状態である」の2つが条件です。退職月の給付調整とは別の問題なので混同しないようにしましょう。

調整対象となる給与の種類

給付調整に使われる「給与」は、以下の通り定義されています。

給与の種別 調整対象 備考
基本給 ✅ 対象 必ず含まれる
残業代(時間外手当) ✅ 対象 調整月の実績分
通勤手当 ✅ 対象 定期代・実費ともに含む
家族手当 ✅ 対象 含まれる
住宅手当 ✅ 対象 含まれる
賞与(ボーナス) ❌ 対象外 除外される
退職金 ❌ 対象外 除外される
企業年金 ❌ 対象外 除外される

賞与・退職金は調整対象外のため、退職月に賞与を受け取っていても傷病手当金の計算には影響しません。

給付調整の計算式|日数按分で返金額を求める

基本的な計算ステップ

給付調整は「日数按分」と呼ばれる方法で行われます。具体的には次の3ステップで計算します。

STEP 1|傷病手当金の1日あたり給付額を算出する

傷病手当金の日額 = 標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3

標準報酬月額は退職前12ヶ月(または被保険者期間)の平均値を使用します。協会けんぽに確認するか、給与明細の「健康保険料」の等級表を参照してください。

STEP 2|退職月の給与相当額(日数按分後)を算出する

給与の日数按分額 = 退職月の給与総額 ÷ 退職月の暦日数 × 傷病手当金の給付対象日数
  • 退職月の暦日数:1月なら31日、4月なら30日
  • 給付対象日数:給付開始日から退職日までの日数

STEP 3|給付調整後の実際の支給額を計算する

実際の支給額 = 傷病手当金の給付予定額 − 給与の日数按分額

  ↓

【ケース①】実際の支給額 > 0円
  → 差額のみ支給(傷病手当金が減額)

【ケース②】実際の支給額 ≦ 0円
  → 傷病手当金は支給なし
  → すでに受け取っていた場合は返金が必要

判定基準の図解

       傷病手当金の給付予定額
              ↕(比較)
    給与の日数按分額(退職月の給与を日割り計算)

  傷病手当金 > 給与按分額 → 差額を支給
  傷病手当金 < 給与按分額 → 支給なし(返金の可能性)

計算シミュレーション|具体的な数字で返金額を確認

ケース①:傷病手当金が一部支給されるパターン

【条件】
標準報酬月額の平均 :300,000円
退職月の給与総額  :180,000円(1月1日〜14日分の日割り給与)
退職月       :1月(暦日数31日)
給付開始日     :1月15日
退職日       :1月31日
給付対象日数    :17日間(15日〜31日)

【計算】
① 傷病手当金の日額
  300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,666円

② 給付予定総額
  6,666円 × 17日 = 113,322円

③ 給与の日数按分額
  180,000円 ÷ 31日 × 17日 = 98,709円

④ 実際の支給額
  113,322円 − 98,709円 = 14,613円 → 支給あり

→ この場合、傷病手当金は14,613円のみ支給されます。すでに満額(113,322円)が振り込まれていた場合は、差額の98,709円を返金する必要があります。

ケース②:傷病手当金が支給なし(全額返金)になるパターン

【条件】
標準報酬月額の平均 :300,000円
退職月の給与総額  :280,000円(各種手当込みの高め)
退職月       :1月(暦日数31日)
給付開始日     :1月25日
退職日       :1月31日
給付対象日数    :7日間(25日〜31日)

【計算】
① 傷病手当金の日額
  300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,666円

② 給付予定総額
  6,666円 × 7日 = 46,662円

③ 給与の日数按分額
  280,000円 ÷ 31日 × 7日 = 63,225円

④ 実際の支給額
  46,662円 − 63,225円 = −16,563円 → 支給なし

→ 給与の按分額が傷病手当金を上回るため、支給額は0円です。すでに振り込まれていた場合は46,662円の全額返金が求められます。

ケース③:退職月が30日の月(4月)のパターン

【条件】
標準報酬月額の平均 :240,000円
退職月の給与総額  :140,000円
退職月       :4月(暦日数30日)
給付開始日     :4月16日
退職日       :4月30日
給付対象日数    :15日間(16日〜30日)

【計算】
① 傷病手当金の日額
  240,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 5,333円

② 給付予定総額
  5,333円 × 15日 = 79,995円

③ 給与の日数按分額
  140,000円 ÷ 30日 × 15日 = 70,000円

④ 実際の支給額
  79,995円 − 70,000円 = 9,995円 → 支給あり

9,995円のみ支給。すでに満額が振り込まれている場合は70,000円の返金が必要です。

申請手順と必要書類

申請フロー全体像

STEP 1:退職前(会社から書類を取得)
   ├─ 傷病手当金申請書(協会けんぽ所定様式)
   ├─ 医師の意見書(診断書)※給付開始日が明記されたもの
   └─ 給与明細のコピー(退職月分)

STEP 2:退職後(協会けんぽへ申請)
   ├─ 傷病手当金支給申請書(被保険者記載欄・事業主記載欄・医師記載欄)
   ├─ 退職証明書または離職票
   └─ 振込先口座情報

STEP 3:給付調整の通知を受け取る
   ├─ 協会けんぽから「支給決定通知書」が届く
   └─ 支給額と調整内容を確認する

STEP 4:返金が必要な場合
   ├─ 返金通知書に従い、指定口座へ振り込む
   └─ 振込期限(通常30日以内)を守る

必要書類の一覧

書類名 入手先 備考
傷病手当金支給申請書 協会けんぽ公式サイト・窓口 1ヶ月ごとに申請が必要
医師の診断書(意見書) かかりつけ医・入院先 給付開始日・休業期間を明記
退職証明書 or 離職票 退職した会社 どちらか一方でOK
給与明細(退職月分) 退職した会社 調整計算に使用される
本人確認書類のコピー 自分で用意 運転免許証・マイナンバーカードなど
振込先口座情報 自分の通帳・キャッシュカード 名義人が本人であること

申請の期限

傷病手当金の申請には時効(2年)があります。給付開始日から2年以内に申請しなければ権利が消滅します。退職後は特に時効を意識した早めの申請を心がけましょう。

返金を最小化するための注意点

注意点①:給付開始日を退職日の翌月以降に設定できないか検討する

給付開始日を退職日と同じ月に設定すると必ず調整が発生します。医師の証明が可能であれば、給付開始日を退職翌月の1日以降にすることで給付調整を回避できる場合があります。退職前に会社・医師・協会けんぽの三者で相談しましょう。

注意点②:給与の「日割り計算」の根拠を必ず確認する

会社が日割り計算に使用する給与額に誤りがある場合、調整額が変わります。退職月の給与明細を必ず受け取り、基本給・各手当の内訳が正確かどうかを確認してください。賞与・退職金が含まれていないかもチェックポイントです。

注意点③:返金通知書の期限に注意する

協会けんぽから返金を求める通知が届いた場合、通常30日以内に振り込む必要があります。期限を過ぎると延滞金が発生したり、将来の給付に影響する場合があります。通知書が届いたらすぐに対応しましょう。

注意点④:国民健康保険への切り替えタイミングを確認する

退職後に国民健康保険へ切り替える場合、傷病手当金の継続給付は退職前の健康保険組合(協会けんぽ)から行われます。国民健康保険には傷病手当金制度がないため、退職後の受給権は退職前に確立しておくことが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 給付調整で返金を求められましたが、分割払いはできますか?

A. 協会けんぽに相談することで、分割払いに応じてもらえる場合があります。一括返金が困難な場合は、返金通知書が届いた直後に協会けんぽへ電話連絡し、事情を説明してください。分割回数・期間は個別対応になります。

Q2. 返金額の計算に納得できない場合はどうすればいいですか?

A. 協会けんぽへ異議申し立て(不服申立)を行うことができます。支給決定通知書を受け取った日から60日以内に、全国健康保険協会の審査請求を経由して異議を申し立てる手続きがあります。計算根拠となった給与額や日数に誤りがないか、まず窓口で確認することをおすすめします。

Q3. 退職月に有給休暇を消化した場合、給付調整はどうなりますか?

A. 有給休暇期間中は給与が支払われるため、その日数分は傷病手当金の給付対象外となります。また、有給消化分の給与は調整計算に含まれます。結果的に給与按分額が大きくなり、返金額が増える可能性があります。退職前に有給消化と傷病手当金の申請時期を慎重に調整しましょう。

Q4. 退職後に傷病手当金の継続給付を受けるにはどのような条件がありますか?

A. 退職後も傷病手当金を継続受給するためには、以下の2つの条件が必要です。

条件①:退職日以前に1年以上の健康保険被保険者期間がある
条件②:退職日に傷病手当金を受給中、
        または受給できる状態(就労不能)である

これらを満たせば、退職後も最大1年6ヶ月(給付開始日から通算)まで継続受給が可能です。

Q5. 協会けんぽ以外の健康保険組合でも同じ計算方法ですか?

A. 健康保険法に基づく給付調整の基本ルールは共通ですが、各健康保険組合によって附加給付や計算の細部が異なる場合があります。組合管掌健康保険(組合健保)に加入している場合は、退職前に所属する健康保険組合へ直接確認することをおすすめします。

まとめ

給付開始日と退職日が同じ月に重なった場合の傷病手当金の給付調整について、重要なポイントを整理します。

確認事項 内容
調整の法的根拠 健康保険法第99条・施行規則第75条
調整方法 退職月の給与を日数按分して傷病手当金と比較
返金が発生するケース 給与按分額が傷病手当金の給付予定額を上回る場合
返金額の計算 給付予定額 − 給与按分額(マイナスは全額返金)
申請の時効 給付開始日から2年以内
返金の期限 通知書受領から原則30日以内
納得できない場合 通知から60日以内に異議申し立て可能

給付調整は複雑に見えますが、計算式の仕組みを理解すれば自分で返金額を事前にシミュレーションできます。退職前に給与明細・退職日・給付開始日の3つを確認し、協会けんぽまたは健康保険組合へ相談することで、想定外の返金を最小限に抑えることができます。

不明点がある場合は、協会けんぽのコールセンター(0120-006-110)または最寄りの都道府県支部窓口へご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 給付開始日と退職日が同じ月の場合、傷病手当金はどうなりますか?
A. 健康保険法の「併給調整」により、傷病手当金と給与の重複部分が調整されます。その結果、傷病手当金が減額されたり、一部返金を求められたりする場合があります。

Q. 傷病手当金の給付調整の対象になる給与と対象外の給与は何ですか?
A. 基本給・残業代・通勤手当・家族手当・住宅手当が対象です。賞与・退職金・企業年金は調整対象外のため、これらを受け取っていても傷病手当金に影響しません。

Q. 給付調整の計算方法は?
A. 標準報酬月額から傷病手当金の日額を算出し、退職月の給与を日数按分してから、傷病手当金から差し引く「日数按分」という方法で計算されます。

Q. 退職後も傷病手当金を継続して受け取ることはできますか?
A. 退職日以前に1年以上の被保険者期間があり、退職日に傷病手当金を受給中または受給できる状態であれば、継続受給が可能です。

Q. 傷病手当金の返金を求められた場合、いつまでに対応する必要がありますか?
A. 健康保険組合から返金の通知が届いた場合、記載されている期限までに指定口座への返金手続きを行う必要があります。不明な点は保険者に確認してください。

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