配偶者が病気やケガで休業し、傷病手当金を受け取っている場合、「配偶者控除は使えるのだろうか」と不安に感じる方は多いでしょう。結論から申し上げると、傷病手当金は非課税所得のため、配偶者控除の所得基準(48万円以下)の判定には一切影響しません。本記事では、その法的根拠から具体的な計算方法・申請手順・税務調査対策まで、実用的な情報を網羅的に解説します。
傷病手当金と配偶者控除の基本関係
配偶者が傷病手当金を受給中であっても、配偶者控除の適用要件はあくまで「配偶者の合計所得金額が48万円以下であるか否か」です。この「合計所得金額」の計算において、傷病手当金は完全に除外されます。つまり、傷病手当金がいくら多く支給されていても、それだけを理由に配偶者控除が使えなくなることはありません。
傷病手当金が「非課税所得」である理由
傷病手当金が非課税所得となる根拠は、以下の2つの法律に明確に定められています。
| 法的根拠 | 内容 |
|---|---|
| 健康保険法第99条 | 業務外の傷病により働けない期間の生活保障として傷病手当金を支給すると規定 |
| 所得税法第9条第1項第18号 | 健康保険法の規定に基づき支払いを受ける傷病手当金は所得税を課さないと明記 |
傷病手当金は「働けない状態の生活を守るための補償」という性格を持ちます。給与のような「労働の対価」ではないため、所得税法上の「所得」には該当せず、課税対象から除外されているのです。国税庁のタックスアンサー(No.1610)においても、「健康保険の傷病手当金は非課税です」と明記されています。
ポイント:傷病手当金は「もらった金額」ではなく「もらっても所得ゼロ」として扱われます。確定申告の必要もなく、税務署への申告義務もありません。
配偶者控除の所得基準48万円にはカウントされない
配偶者控除(所得税法第83条)の適用には、配偶者の「合計所得金額」が48万円以下であることが条件です。ここでいう「合計所得金額」は、課税所得のみを合算したものであり、非課税所得である傷病手当金は含まれません。
【具体的な計算例1】給与と傷病手当金の両方がある場合
〈前提〉
・配偶者の給与収入:150万円
・傷病手当金:年間100万円
・その他所得:なし
〈計算〉
給与所得 = 150万円 − 給与所得控除55万円 = 95万円
傷病手当金 = 非課税のため 0円(カウントしない)
合計所得金額 = 95万円
→ 48万円を超えるため配偶者控除(38万円控除)は不可
→ ただし配偶者特別控除(段階的控除)は適用可能
【具体的な計算例2】傷病手当金のみの場合
〈前提〉
・配偶者の給与収入:0円(休業中)
・傷病手当金:年間120万円
・その他所得:なし
〈計算〉
給与所得 = 0円
傷病手当金 = 非課税のため 0円(カウントしない)
合計所得金額 = 0円
→ 48万円以下のため配偶者控除(38万円控除)が適用可!
重要:上記のように、傷病手当金がどれだけ高額でも、給与収入がなければ所得はゼロとみなされ、配偶者控除をフルに受けられます。
配偶者控除対象の判定フロー
配偶者控除が適用できるかどうかは、以下の判定フローで確認できます。傷病手当金を除いた「合計所得金額」が起点となります。
STEP 1: 配偶者の所得源をすべてリストアップする
↓
STEP 2: 非課税所得(傷病手当金・各種給付金等)を除外する
↓
STEP 3: 課税所得ごとに所得控除を適用し「所得金額」を計算する
↓
STEP 4: 各所得を合算し「合計所得金額」を算出する
↓
STEP 5: 合計所得金額が48万円以下 → 配偶者控除(38万円)
48万円超133万円以下 → 配偶者特別控除(段階的)
133万円超 → 控除なし
傷病手当金を除いた配偶者の所得計算式
所得の種類によって、課税所得の計算方法が異なります。以下の表で所得の種類ごとに整理しましょう。
| 所得の種類 | 収入から所得への計算方法 | 配偶者控除適用の目安(収入ベース) |
|---|---|---|
| 給与所得 | 給与収入 − 給与所得控除(最低55万円〜) | 年収103万円以下 |
| 事業所得 | 事業収入 − 必要経費 | 所得ベース48万円以下(収入規模による) |
| 不動産所得 | 家賃収入 − 必要経費・減価償却費 | 所得ベース48万円以下 |
| 傷病手当金 | 除外(非課税・カウントしない) | 金額に関係なく影響なし |
| 雇用保険の失業給付 | 除外(非課税) | 金額に関係なく影響なし |
複数所得がある場合の計算例:
〈前提〉
・配偶者の給与収入:60万円(パート)
・傷病手当金:80万円
・副業の事業収入:30万円、必要経費:15万円
〈計算〉
給与所得 = 60万円 − 55万円(給与所得控除)= 5万円
事業所得 = 30万円 − 15万円(経費) = 15万円
傷病手当金 = 0円(非課税)
合計所得金額 = 5万円 + 15万円 = 20万円
→ 48万円以下 ✅ → 配偶者控除(38万円)適用可!
配偶者控除額の早見表【2024年度以降対応版】
納税者(控除を受ける側)本人の合計所得金額が900万円以下の場合の控除額を掲載します。
■ 配偶者控除(配偶者の合計所得金額:48万円以下)
| 納税者本人の合計所得金額 | 控除額(一般) | 控除額(老人配偶者70歳以上) |
|---|---|---|
| 900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
| 900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
| 950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
| 1,000万円超 | 0円(適用不可) | 0円(適用不可) |
■ 配偶者特別控除(配偶者の合計所得金額:48万円超133万円以下)
| 配偶者の合計所得金額 | 控除額(納税者所得900万円以下) |
|---|---|
| 48万円超 95万円以下 | 38万円 |
| 95万円超 100万円以下 | 36万円 |
| 100万円超 105万円以下 | 31万円 |
| 105万円超 110万円以下 | 26万円 |
| 110万円超 115万円以下 | 21万円 |
| 115万円超 120万円以下 | 16万円 |
| 120万円超 125万円以下 | 11万円 |
| 125万円超 130万円以下 | 6万円 |
| 130万円超 133万円以下 | 3万円 |
| 133万円超 | 0円(対象外) |
配偶者控除と配偶者特別控除の違い:配偶者控除は「配偶者の所得が48万円以下」のときに受けられる控除です。配偶者特別控除は「48万円を超えるが133万円以下」のときに段階的に受けられる控除です。両方を同時に受けることはできません。
健康保険の扶養認定と税務上の扶養は別物
ここは多くの方が混同しやすいポイントです。「扶養」には2種類あり、判定基準がまったく異なります。
| 扶養の種類 | 管轄 | 収入基準 | 傷病手当金の扱い |
|---|---|---|---|
| 税務上の扶養(配偶者控除) | 税務署・確定申告 | 合計所得金額48万円以下 | 除外(影響なし) |
| 健康保険上の扶養(被扶養者認定) | 健康保険組合・協会けんぽ | 年収130万円未満 | 含まれる(影響あり) |
健康保険の被扶養者認定では、傷病手当金は「収入」としてカウントされます。日額3,612円以上(年収130万円相当÷360日)の傷病手当金を受給している場合、健康保険上の扶養から外れる可能性があります。
税務上の配偶者控除には影響しないが、健康保険の扶養認定には影響するという点を必ず区別して理解しておきましょう。
申請手順と必要書類
Step 1:傷病手当金の申請(配偶者が行う)
配偶者が傷病手当金を受給するための申請手順です。
提出先:加入する健康保険組合または協会けんぽ各支部
必要書類:
【必須書類一覧】
✓ 傷病手当金支給申請書(健保指定様式)
─ 被保険者記入欄(療養期間・給与の有無等)
─ 医療機関記入欄(主治医による療養・就労不能の証明)
─ 事業主記入欄(休業期間・給与支払い状況の証明)
✓ 給与明細書または給与台帳のコピー(休業期間分)
✓ マイナンバーが確認できる書類(初回申請時)
✓ 振込先口座情報
申請のタイミング:待期3日間完成後から申請可能。月ごとに申請するのが一般的です。
Step 2:年末調整または確定申告での配偶者控除の申告(納税者が行う)
配偶者控除を受ける側(納税者)が、年末調整または確定申告で申告します。
年末調整の場合(会社員)
【提出書類】
✓ 給与所得者の配偶者控除等申告書
→ 配偶者の「合計所得金額の見積額」欄には
傷病手当金を除いた金額を記載する
✓ 配偶者の所得を証明できる書類(源泉徴収票等)
提出期限:その年の年末調整時(通常11月〜12月)
確定申告の場合(自営業・医療費控除と併用等)
【提出書類】
✓ 確定申告書(第一表・第二表)
→ 配偶者の合計所得金額を「配偶者の合計所得金額」欄に記載
→ 傷病手当金は記載不要(非課税のため)
✓ 配偶者の源泉徴収票
✓ 本人確認書類
提出期限:翌年2月16日〜3月15日(税務署へ持参またはe-Tax)
Step 3:申告内容のチェックポイント
申告誤りを防ぐために、以下を必ず確認してください。
- [ ] 配偶者の「合計所得金額」に傷病手当金が含まれていないか
- [ ] 給与収入がある場合、給与所得控除を適用した「所得金額」で記載しているか
- [ ] 自分自身(納税者)の合計所得金額が1,000万円以下であるか(超える場合は配偶者控除不可)
- [ ] 配偶者が他の納税者の扶養に入っていないか
税務調査への備え・注意点
傷病手当金と配偶者控除の申告で注意すべきこと
「傷病手当金を受け取っているのに配偶者控除を申告するのは問題では?」と心配される方もいます。法律に基づいた正当な申告ですので、まったく問題ありません。ただし、税務調査に備えて以下の点を整理しておくと安心です。
【税務調査対策チェックリスト】
✓ 傷病手当金の支給決定通知書・振込明細を保管している
✓ 配偶者の給与明細・源泉徴収票を保管している
✓ 配偶者の給与所得のみで合計所得金額を正確に計算している
✓ 年末調整または確定申告書の控えを7年間保管している
✓ 健康保険組合への扶養届の提出状況を確認している
よくある申告ミスとその対処法
| ミスの内容 | 正しい対処法 |
|---|---|
| 傷病手当金を「収入」として合計所得に加算してしまった | 傷病手当金は非課税のため除外して再計算・修正申告を行う |
| 配偶者控除と配偶者特別控除を両方申告した | どちらか一方のみ適用。所得に応じて正しい方を選択 |
| 健康保険の扶養を外れたため税務上も扶養外と思い込んだ | 税務と健康保険は別。税務上の基準で改めて確認する |
| 年の途中で傷病手当金が終了し給与が再開した際の所得確認漏れ | 年間の合計所得を通算で再確認し年末調整・確定申告で精算 |
修正申告が必要なケース
過去に配偶者控除を申告し忘れていた場合、5年以内であれば更正の請求(払いすぎた税金の還付申請)が可能です。逆に、誤って多く控除を受けていた場合は修正申告が必要です。いずれも管轄の税務署またはe-Taxで手続きできます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 傷病手当金は確定申告で申告する必要がありますか?
A. 傷病手当金は非課税所得のため、確定申告での申告は不要です。金額の記載も不要で、収入として扱う必要はありません。
Q2. 配偶者が傷病手当金を受給しながらパートで少し働いている場合はどうなりますか?
A. パート収入(給与収入)は課税所得となります。給与収入から給与所得控除(最低55万円)を差し引いた「給与所得」を計算し、48万円以下であれば配偶者控除が適用できます。年収103万円以下であれば給与所得は48万円以下に収まります。傷病手当金はその計算に加算しません。
Q3. 年の途中から傷病手当金を受け取り始めた場合、その年の配偶者控除はどうなりますか?
A. その年の1月1日〜12月31日の1年間の合計所得金額で判定します。傷病手当金受給前に得た給与所得と傷病手当金受給期間中の給与所得(支給があれば)を合算し、48万円以下かを確認します。傷病手当金自体は加算しません。
Q4. 健康保険の扶養(被扶養者)は外れたが、税務上の配偶者控除は受けられますか?
A. はい、受けられます。健康保険の扶養認定と税務上の配偶者控除は判定基準が異なります。健康保険の扶養から外れていても、配偶者の合計所得金額が48万円以下であれば、税務上の配偶者控除は問題なく適用できます。
Q5. 傷病手当金を受け取った翌年、配偶者控除の申告を修正したい場合は?
A. 過去5年以内の申告については、税務署に「更正の請求書」を提出することで、払いすぎた税金の還付を受けることができます。必要書類は確定申告書の控え・源泉徴収票・傷病手当金の支給通知書等です。e-Taxでの提出も可能です。
まとめ
本記事の重要ポイントを整理します。
| 確認項目 | 結論 |
|---|---|
| 傷病手当金は課税所得か | 非課税・所得ゼロとして扱う |
| 配偶者控除の所得基準 | 48万円以下(傷病手当金を除いた合計所得金額) |
| 配偶者控除の控除額 | 最大38万円(納税者所得900万円以下の場合) |
| 健康保険の扶養との関係 | 別制度・別基準のため混同しないこと |
| 税務調査への備え | 支給通知書・給与明細を7年間保管 |
傷病手当金を受け取っている配偶者がいる場合でも、給与等の課税所得が48万円以下であれば、配偶者控除を正当に申告することが可能です。申告漏れは税金の払いすぎにつながりますので、年末調整や確定申告の際にしっかりと反映させましょう。不明点は最寄りの税務署または税理士にご相談ください。
本記事は2024年度時点の法令・税制に基づいて作成しています。税制は改正される場合がありますので、申告の際は最新情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 傷病手当金を受け取っていても配偶者控除は使えますか?
A. はい、使えます。傷病手当金は非課税所得のため、配偶者控除の所得基準判定に一切含まれません。傷病手当金がいくら多くても影響しません。
Q. 傷病手当金が非課税である法的根拠は何ですか?
A. 健康保険法第99条と所得税法第9条第1項第18号で定められています。傷病手当金は労働の対価ではなく、働けない状態の生活保障として位置づけられているため課税されません。
Q. 配偶者が給与150万円と傷病手当金100万円を受け取る場合、配偶者控除は適用されますか?
A. いいえ。傷病手当金は除外されますが、給与から所得控除後の所得が95万円となり48万円を超えるため、配偶者控除は適用されません。ただし配偶者特別控除は対象です。
Q. 傷病手当金のみで給与がない場合、配偶者控除は受けられますか?
A. はい、受けられます。傷病手当金は非課税のため合計所得金額がゼロとなり、48万円以下の基準をクリアするため配偶者控除がフルに適用されます。
Q. 傷病手当金受給時に配偶者控除申請の際、何か特別な手続きが必要ですか?
A. 特別な手続きは不要です。通常通り年末調整または確定申告時に配偶者控除を申請してください。傷病手当金の申告義務もありません。

