死亡後の高額療養費を相続人が請求する方法【必要書類一覧】

死亡後の高額療養費を相続人が請求する方法【必要書類一覧】 高額療養費制度

「親が入院中に亡くなってしまった。高額療養費の還付金はもう受け取れないのだろうか——」

そう諦めている遺族の方も多いですが、実は相続人が代わりに請求できます。被保険者が死亡した後でも、未支給の高額療養費は相続財産として受け取る権利が引き継がれます。ただし、請求できる人の優先順位・必要書類・申請先・時効(2年)には厳格なルールがあり、手続きを知らないまま放置すると受け取れなくなる可能性もあります。

この記事では、死亡後の高額療養費を相続人が請求するための手順を、法的根拠・必要書類・計算方法・注意点まで網羅的に解説します。


「死亡後の高額療養費」は誰のお金?相続財産になるのか

請求できる人の優先順位 請求条件 必要な確認事項
第1順位:配偶者・子 配偶者または子が生存していること 戸籍謄本で血縁関係を確認
第2順位:父母・祖父母 第1順位がいない場合のみ 直系尊属であることを証明
第3順位:兄弟姉妹 前順位者がすべて不在の場合のみ 兄弟姉妹の関係を証明
重要:請求期限 死亡日から2年以内 期限を過ぎると時効で請求不可

高額療養費は「被保険者の財産権」として相続される

高額療養費とは、1か月の医療費の自己負担額が一定の限度額(自己負担限度額)を超えた場合に、超過分が保険者(健康保険組合・協会けんぽ・市区町村など)から払い戻される制度です。

被保険者が死亡した時点で、この払い戻しがまだ行われていなかった場合、高額療養費の請求権は被保険者の財産権として相続財産に組み込まれます。最高裁判例においても、未支給の給付金請求権は相続性を持つ財産と認められています。

法的根拠は以下のとおりです。

根拠法 条文 内容
健康保険法 第116条 高額療養費の支給要件
健康保険法 第116条第2項 死亡後の請求規定
民法 第882〜883条 相続の開始・財産の承継
民法 第900条 法定相続分の規定

相続財産であることの実務上の意味

高額療養費の請求権が「相続財産」である以上、複数の相続人がいる場合は法定相続分に応じて分割されます。たとえば、配偶者と子ども2人が相続人であれば、配偶者が1/2、子ども1人あたり1/4という割合で受け取ることになります。

ただし、実務上は相続人の代表者1名が申請し、受領した金額を相続人間で分配するケースがほとんどです。また、相続放棄をした相続人は請求権を失います。相続放棄を検討している場合は、この点も含めて判断してください。


請求できる相続人の優先順位と注意点

法定相続人の優先順位

請求できるのは法律上の相続人に限られます。優先順位は以下のとおりです。

順位 相続人 備考
第1順位 配偶者(法律婚)+子(実子・養子) 配偶者は常に相続人
第2順位 配偶者+父母(直系尊属) 子がいない場合
第3順位 配偶者+兄弟姉妹 子・父母ともにいない場合

重要なポイント:事実婚・内縁関係の配偶者は請求不可です。 戸籍に記載された法律婚の配偶者でなければ相続人として認められないため、事実婚の方は請求権を持ちません。また、養子縁組が正式に成立していない「子」も請求できません。

相続人が複数いる場合の取り扱い

相続人が複数いる場合、保険者への申請は相続人代表者1名が行います。その際、他の相続人全員から「代表者による請求に同意する」旨の委任状または同意書を取得しておくと手続きがスムーズです。

受領後の分配については保険者は関与しません。相続人間で法定相続分または遺産分割協議書に基づいた合意に従って分配してください。


請求対象となる医療費の条件

対象となる医療費

高額療養費の遺族請求が認められるのは、以下のすべての条件を満たす医療費です。

【対象条件チェックリスト】
✅ 被保険者の死亡時点で未支給だった高額療養費
✅ 高額療養費の支給要件(自己負担限度額超過)を満たしていた
✅ 保険診療の範囲内の医療費
✅ 月単位での医療費計算が確定している
✅ 被保険者の資格期間中(死亡日当日まで)の医療費

対象外となる医療費

以下の費用は高額療養費の対象外です。払い戻しを期待していても請求できないため、事前に確認しておきましょう。

  • 差額ベッド代・食事療養費:保険適用外の自費負担
  • 先進医療・自由診療:保険外の医療行為
  • 死亡診断書の作成料:自費扱いとなる文書料
  • 月をまたいで請求が未確定の医療費:月単位計算が完了していないもの
  • 被保険者資格喪失後の医療費:死亡日の翌日以降(資格消滅後)の医療

ポイント: 入院中に月をまたいで亡くなった場合、亡くなった月の医療費についても高額療養費の計算対象になります。ただし、その月の医療機関への支払いが確定していることが前提となります。


自己負担限度額の確認方法と計算例

所得区分による自己負担限度額(70歳未満)

高額療養費の計算に必要な自己負担限度額は、被保険者の所得区分によって異なります。

所得区分 月の上限額(目安) 計算式
ア(標準報酬月額83万円以上) 252,600円+超過分の1% 252,600円+(医療費−842,000円)×1%
イ(標準報酬月額53〜79万円) 167,400円+超過分の1% 167,400円+(医療費−558,000円)×1%
ウ(標準報酬月額28〜50万円) 80,100円+超過分の1% 80,100円+(医療費−267,000円)×1%
エ(標準報酬月額26万円以下) 57,600円(上限固定) 57,600円
オ(住民税非課税) 35,400円(上限固定) 35,400円

計算例

例:所得区分「ウ」の方が1か月の医療費(10割)が50万円かかった場合

自己負担限度額 = 80,100円 +(500,000円 − 267,000円)× 1%
            = 80,100円 + 233,000円 × 0.01
            = 80,100円 + 2,330円
            = 82,430円

窓口で支払った3割負担 = 500,000円 × 30% = 150,000円

高額療養費として還付される金額 = 150,000円 − 82,430円 = 67,570円

この67,570円が相続人が請求できる未支給高額療養費の金額(概算)となります。

70歳以上・後期高齢者医療の場合

70歳以上の方は「高齢受給者証」の負担割合と所得区分によって上限額が異なります。また、75歳以上の後期高齢者医療被保険者については、後期高齢者医療広域連合が申請先となり、限度額も別の区分が適用されます。亡くなった方が後期高齢者医療に加入していた場合は、お住まいの都道府県の後期高齢者医療広域連合に確認してください。


申請前の確認作業:未支給高額療養費があるか調べる

保険者への事前照会が最初のステップ

相続人が請求手続きを始める前に、まず被保険者が加入していた保険者に「未支給の高額療養費があるかどうか」を照会することが重要です。

保険者に連絡する際は、以下の情報を手元に用意しておくとスムーズです。

  • 被保険者の氏名・生年月日
  • 被保険者番号(保険証に記載)
  • 死亡年月日
  • 問い合わせ者(相続人)の氏名・続柄・連絡先

照会方法は電話・窓口来訪どちらも可能です。なお、個人情報保護の観点から、照会時に続柄を証明できる書類(戸籍謄本など)の提出を求められることがあります。

申請先の確認

被保険者が加入していた保険の種類によって、申請先が異なります。

保険の種類 申請先
協会けんぽ(全国健康保険協会) 被保険者が在職していた事業所の管轄・協会けんぽ各都道府県支部
健康保険組合(組合健保) 被保険者が加入していた健康保険組合
国民健康保険 被保険者の住所地の市区町村役場・国保担当窓口
後期高齢者医療保険 都道府県後期高齢者医療広域連合(市区町村窓口経由での受付も可)
共済組合 各共済組合の担当窓口

必要書類の完全リスト

全保険共通の基本書類

以下の書類はほぼすべての申請で必要となります。事前に漏れなく準備しておきましょう。

書類名 取得先 用途
高額療養費支給申請書(相続人用) 保険者窓口・ウェブサイト 申請の基本様式
被保険者の死亡診断書(写し可) 医療機関・すでに取得済みの場合はコピー 死亡事実の証明
被保険者と請求者の続柄を証明する戸籍謄本 市区町村役場 相続人であることの証明
請求者(相続人)の住民票 市区町村役場 請求者の現住所確認
請求者名義の振込先口座情報(通帳・キャッシュカードのコピー) 本人保有 支払先の確認
被保険者の健康保険証(コピー) 本人保有(死亡後返却済みの場合は不要) 被保険者資格の確認

申請先別に追加で必要になる書類

協会けんぽ・健康保険組合の場合

  • 被保険者資格喪失届(事業主経由で提出済みであることが多い)
  • 事業主の証明が必要な場合は在職証明書

国民健康保険の場合

  • 国民健康保険証(返納または紛失届の確認)
  • 世帯主変更届(必要に応じて)

複数の相続人がいる場合

  • 相続人全員の戸籍謄本または法定相続情報一覧図
  • 相続人代表者への委任状(他の相続人全員の署名・捺印)

法定相続情報一覧図とは?
法務局が発行する、相続人の関係を一覧化した公的証明書です。相続手続きで複数の書類提出が必要な場合に、戸籍謄本の束の代わりとして使用できます。相続手続きが複数ある場合は取得しておくと大変便利です。法務局に申請書と必要書類を提出すると無料で発行してもらえます。


ステップ別申請手順

STEP 1:保険者に照会して未支給額を確認する

まず保険者に電話または窓口で連絡し、「亡くなった被保険者の未支給高額療養費の有無」を確認します。担当者から申請書類の案内を受けると同時に、書式が保険者ごとに異なる「高額療養費支給申請書(相続人用)」を入手します。

多くの保険者では郵送またはウェブサイトからの様式ダウンロードにも対応しています。

STEP 2:必要書類を収集する

前述の必要書類リストに沿って書類を集めます。戸籍謄本・住民票は市区町村役場で取得できます。死亡診断書はすでに手元にある場合は写しで対応可能な保険者が多いですが、原本を求める場合もあるため事前確認が必要です。

STEP 3:申請書を記入して提出する

申請書に記入する主な項目は以下のとおりです。

  • 被保険者の氏名・生年月日・死亡年月日・被保険者番号
  • 請求者(相続人)の氏名・住所・続柄
  • 振込先口座情報(請求者名義)
  • 対象となる診療年月・医療機関名

記入が完了したら、必要書類と一緒にまとめて保険者に提出します。持参・郵送いずれも対応している保険者がほとんどですが、紛失リスクを防ぐため、郵送の場合は簡易書留または特定記録郵便を利用することをおすすめします。

STEP 4:審査・支給決定の通知を待つ

申請後、保険者による審査が行われます。審査期間の目安は保険者によって異なりますが、1〜3か月程度が一般的です。支給が決定すると、通知書と合わせて振込が行われます。申請から2か月以上経過しても連絡がない場合は、保険者に進捗を確認することをおすすめします。


請求期限(時効)に注意:2年で権利が消滅する

高額療養費の時効は「2年」

高額療養費の支給申請には時効が定められています。健康保険法第193条により、支給を受ける権利は2年間行使しないと時効によって消滅します。

時効のカウントは「診療を受けた月の翌月1日から」が起算点となります。

例:被保険者が2023年8月に死亡し、2023年8月分の医療費が対象の場合

起算日:2023年9月1日
時効成立日:2025年9月1日(2年後)
→ 2025年8月31日までに申請が必要

時効を過ぎると一切請求できなくなる

2年の時効が成立すると、原則として一切の請求ができなくなります。相続の手続きに時間がかかっている場合や、高額療養費の存在自体に気づいていなかった場合でも、例外なく適用されます。

亡くなった方の保険証・医療費の領収書・入院の事実が確認できたら、できるだけ早く保険者への照会から始めてください。「まだ時間がある」と思っていても、遺産整理や相続税申告などの手続きに追われて気づけば期限が迫っていることも少なくありません。

保険者から申請のお知らせが届く場合もある

協会けんぽや健康保険組合では、高額療養費の支給対象となっていることを被保険者(または世帯)宛に通知するシステムを持っているケースがあります。ただし、死亡後の場合は通知が届かないこともあるため、自ら照会する行動が重要です。


高額療養費以外に遺族が請求できる給付金

高額療養費の請求を調べる過程で、他の未支給給付金が発見されることがあります。あわせて確認しておきましょう。

給付名 内容 申請先
埋葬料(埋葬費) 被保険者死亡時に家族または埋葬を行った方に支給(健保:5万円、国保:地域差あり) 加入保険者
傷病手当金(未支給分) 死亡前に受給していた傷病手当金の未受領分 加入保険者
出産育児一時金(未支給) 死産等の事情により未受領のまま死亡した場合 加入保険者
葬祭費 国保・後期高齢者医療の場合に支給(金額は市区町村により異なる) 市区町村

埋葬料・埋葬費も時効は2年です。高額療養費と同時に確認・申請することで、手続きの手間を減らすことができます。


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よくある質問

Q1. 相続放棄をした場合でも高額療養費を請求できますか?

いいえ、請求できません。相続放棄をすると、相続財産に含まれる高額療養費の請求権もあわせて放棄したことになります。相続放棄の手続きは家庭裁判所への申述から3か月以内に行う必要があります。高額療養費の受け取りを優先したい場合は、相続放棄の前に十分に検討してください。

Q2. 死亡診断書をすでに市区町村に提出してしまい手元にない場合はどうすればいいですか?

市区町村役場または病院で再発行・写しの取得ができます。市区町村役場では「死亡届の記載事項証明書」を取得できます(手数料が必要)。また、多くの保険者では写しでの対応が可能なため、手元にある写しを使用するか、事前に保険者に確認してください。

Q3. 被保険者が複数の病院にかかっていた場合、それぞれの医療費を合算できますか?

同じ月内であれば、同一保険者の範囲で医療費を合算することができます(世帯合算も条件次第で可能)。ただし、合算請求の場合は対象となる医療機関ごとの領収書や診療明細書が必要となることがあります。保険者に個別に確認することをおすすめします。

Q4. 死亡した親が国民健康保険に加入していた場合、どこに申請すればよいですか?

親の住所地(死亡時の住所)の市区町村役場・国民健康保険担当窓口が申請先です。転居していた場合は、死亡時の住民票がある市区町村に確認してください。申請書の様式は市区町村によって異なるため、窓口または自治体ウェブサイトで取得します。

Q5. 会社員だった父が死亡した後に退職扱いとなり、保険証が返却済みです。申請は可能ですか?

申請可能です。被保険者資格が消滅(退職・死亡)した後でも、資格喪失前(死亡日当日まで)の医療費については高額療養費の請求権が発生します。健康保険証は手元になくても申請できますが、被保険者番号が分かる書類(保険証のコピーなど)があると照会がスムーズです。被保険者番号が不明な場合は、元の勤務先または保険者に確認してください。

Q6. 申請から支給まで何か月かかりますか?

一般的に1〜3か月程度かかります。審査の混雑状況や書類の不備によっては、さらに時間がかかることがあります。申請から2か月以上経過しても支給通知が届かない場合は、保険者に進捗確認の連絡を入れることをおすすめします。


まとめ:相続人による高額療養費請求の重要ポイント

被保険者が亡くなった後でも、未支給の高額療養費は相続人が受け取ることができます。手続きにあたって最低限押さえておきたいポイントを以下にまとめます。

【手続きの要点まとめ】

✅ 請求権は相続財産:法律婚の配偶者・子・父母・兄弟姉妹の順で承継
✅ 事実婚・内縁関係は請求不可:戸籍記載が必須
✅ 申請先は加入保険の種類で異なる:協会けんぽ・健保組合・市区町村・広域連合
✅ 時効は診療月の翌月1日から2年:早めの照会・申請が鉄則
✅ 複数の相続人がいる場合は法定相続分で按分
✅ 相続放棄をすると請求権も消滅
✅ 埋葬料・傷病手当金など他の未支給給付もあわせて確認

「亡くなった家族の手続きに追われて、高額療養費のことまで考える余裕がなかった」という状況はよくあることです。しかし、時効は待ってくれません。まずは保険者への照会1本の電話から始めてください。未支給高額療養費の有無を確認するだけなら、書類は何も必要ありません。

相続手続きに追われている方も、保険者への照会だけは早めに行い、時効の期限を把握した上でスケジュールを立てて進めることが大切です。

相続手続きや社会保険給付についてご不明な点がある場合は、加入保険者・市区町村役場・社会保険労務士などの専門家に気軽にご相談ください。


本記事は制度の一般的な解説を目的としており、個別の事例に対する法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な手続きや判断については、加入保険者や社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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