在宅介護を利用している方や、ご家族の介護をされている方から「訪問看護の費用は医療費控除に使えますか?」「ヘルパーさんの費用はどうですか?」という質問を多くいただきます。
結論を先にお伝えすると、訪問看護は医療費控除の対象、居宅介護(訪問介護)は原則として対象外です。しかし、この判断を誤ったまま確定申告をしてしまうと、申告漏れや誤申告につながります。
この記事では、訪問看護と居宅介護の医療費控除における取り扱いの違い、対象・対象外の判定基準、そして実際の申告手続きまでを完全解説します。
1. 医療費控除の「介護医療」と「介護サービス」の境界線
医療費控除制度の基本確認
医療費控除は、所得税法第73条に基づく所得税軽減制度です。納税者本人、配偶者、生計を一にする親族のために支払った医療費が一定額を超えた場合、その超過分を所得から控除できます。
控除額の計算式:
医療費控除額 = 年間医療費の合計 − 保険金等の補填額 − 10万円※
※総所得金額等が200万円未満の場合は、総所得金額等の5%
控除の上限は200万円で、控除額に所得税率(5~45%)を掛けた金額が実際の税負担軽減額となります。
申請ミスが最も多い「境界線」
介護保険サービスや在宅医療サービスをご利用の方が確定申告で最も誤りやすいのが、「介護医療」と「介護サービス」の区分です。
この2つを分ける最大の判断基準は、次の2点です。
| 判断基準 | 医療費控除○ | 医療費控除✗ |
|---|---|---|
| 医師指示の有無 | 医師の指示書・指示に基づく | 医師の指示なし |
| サービスの主目的 | 医療行為・治療・リハビリが主 | 身体介護・生活援助が主 |
この考え方を軸に、以下の章で各サービスを詳しく解説します。
2. 訪問看護は医療費控除対象【具体的対象項目一覧】
2-1. 訪問看護が対象となる理由と医療保険の関係
訪問看護が医療費控除の対象となる根拠は、医師が交付する「訪問看護指示書」に基づいてサービスが提供される点にあります。訪問看護師は、看護師・准看護師・保健師・助産師のいずれかの有資格者であり、診療報酬の体系に組み込まれた医療行為を家庭で実施します。
- 医療保険(健康保険法)が適用される訪問看護は、そのまま医療費控除の対象です。
- 介護保険が適用される訪問看護であっても、医師の指示のもと医療行為が中心であれば対象となります。
- 自費の訪問看護でも、医学的根拠のある処置・指導が内容であれば対象と認められます。
ポイント: 領収書に「訪問看護基本療養費」「訪問看護管理療養費」などの記載がある場合は、医療費控除の対象です。
2-2. 訪問看護の対象経費リスト(早見表)
以下のチェックリストで、ご利用のサービスが対象かどうかを確認してください。
✅ 医療費控除の対象となる訪問看護費用
- ✓ 訪問看護基本療養費・訪問看護管理療養費(保険診療分の自己負担)
- ✓ 注射・点滴(インスリン注射・中心静脈栄養を含む)
- ✓ 血糖測定・血圧管理等の医療的処置
- ✓ 膀胱留置カテーテルの管理・交換
- ✓ 喀痰吸引・気管カニューレの管理
- ✓ 褥瘡(床ずれ)の処置・洗浄・処置
- ✓ 呼吸管理(在宅酸素・人工呼吸器の管理指導)
- ✓ 経鼻胃管・胃ろう(PEG)の管理
- ✓ 精神科訪問看護(医師指示に基づく治療的ケア)
- ✓ 自費の訪問看護(医学的根拠のある処置・指導が目的)
❌ 医療費控除の対象外となる訪問看護費用
- ✗ 入浴介助(身体清潔保持が主目的のもの)
- ✗ 排泄介助・トイレ誘導(介護目的のもの)
- ✗ 生活援助(食事の準備・洗濯・掃除)
- ✗ 単純な安否確認のみの訪問
- ✗ 保健指導・健康教育のみを目的としたもの
注意: 1回の訪問に医療行為と介護行為が混在する場合、医療行為が主目的かどうかで判断します。判断が難しい場合は、訪問看護ステーションや担当のケアマネジャーに「医療費控除対象証明書」の発行を依頼しましょう。
2-3. 特別管理加算・ターミナルケア加算は対象か
診療報酬に定められた各種加算についても、医療費控除の対象となります。主なものを以下に整理します。
| 加算名 | 対象となる状態・内容 | 控除対象 |
|---|---|---|
| 特別管理加算Ⅰ | 在宅悪性腫瘍等患者、在宅気管切開患者等 | ✅ 対象 |
| 特別管理加算Ⅱ | 留置カテーテル、在宅自己注射指導等 | ✅ 対象 |
| ターミナルケア加算 | 末期がん患者等への24時間対応・看取りケア | ✅ 対象 |
| 精神科重症患者支援管理連携加算 | 精神疾患重症患者への連携ケア | ✅ 対象 |
| 乳幼児加算 | 15歳未満の小児への訪問看護 | ✅ 対象 |
実例: 末期がんの父親に対して訪問看護ステーションから24時間対応の訪問看護とターミナルケアを受け、月額自己負担(ターミナルケア加算含む)が2万円だった場合、その全額が医療費控除の対象医療費に含まれます。
3. 居宅介護(訪問介護)は医療費控除非対象【対象外判定のコツ】
3-1. 訪問介護が対象外となる理由
訪問介護(ホームヘルパーによる居宅介護)が医療費控除の対象外となる根拠は、医師の指示がなく、サービスの主目的が「生活の維持・支援」である点にあります。
所得税基本通達73-4(医療費の範囲)では、医療費控除の対象となる介護費用について「治療行為または診療に準ずる行為」であることが必要とされています。訪問介護のヘルパーが行う身体介護・生活援助は、この要件を満たしません。
| サービス区分 | 主な内容 | 控除可否 |
|---|---|---|
| 訪問介護(身体介護) | 入浴・排泄・食事介助 | ❌ 対象外 |
| 訪問介護(生活援助) | 掃除・洗濯・買い物・調理 | ❌ 対象外 |
| 夜間対応型訪問介護 | 夜間の排泄・安否確認 | ❌ 対象外 |
| 定期巡回・随時対応型訪問介護 | 定期的な身体介護・安否確認 | ❌ 対象外 |
3-2. 「訪問看護」と「訪問介護」の名称混同に注意
在宅介護サービスには似た名称が多く、混同による申告誤りが頻発しています。以下の対比表で必ず確認してください。
| サービス名 | 担当者 | 指示 | 控除 |
|---|---|---|---|
| 訪問看護 | 看護師・保健師 | 医師の指示書必須 | ✅ 対象 |
| 訪問介護 | 介護福祉士・ホームヘルパー | 介護支援専門員(ケアマネ)のケアプランに基づく | ❌ 対象外 |
| 訪問リハビリテーション | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 | 医師の指示書必須 | ✅ 対象 |
| 訪問入浴介護 | 介護職員・看護師(補助) | ケアプランに基づく | ❌ 原則対象外 |
| 居宅療養管理指導 | 医師・歯科医師・薬剤師等 | 医師の判断に基づく | ✅ 対象 |
3-3. 介護保険対象サービスの控除可否一覧
居宅サービス
| サービス名 | 控除可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 訪問看護 | ✅ 対象 | 医師指示・医療行為 |
| 訪問介護 | ❌ 対象外 | 生活援助・身体介護 |
| 訪問リハビリ | ✅ 対象 | 医師指示・機能回復治療 |
| 居宅療養管理指導 | ✅ 対象 | 医師・歯科医師・薬剤師の治療指導 |
| デイサービス(通所介護) | ❌ 対象外 | 生活機能訓練が主 |
| デイケア(通所リハビリ) | ✅ 対象 | 医師指示のリハビリが主 |
| ショートステイ(短期入所生活介護) | ❌ 対象外 | 生活介護が主 |
| ショートステイ(短期入所療養介護) | ✅ 対象 | 医療機関での療養が主 |
| 福祉用具貸与・購入 | ❌ 原則対象外 | 日常生活用具 |
4. 判定フローチャート【対象か対象外かを3ステップで確認】
申告前に以下の手順で判定してください。
STEP 1:「医師の指示書(訪問看護指示書等)」は存在するか?
│
├─ Yes → STEP 2へ
└─ No → ❌ 医療費控除対象外
(訪問介護・生活援助等)
STEP 2:サービスの主目的は「医療行為・治療・リハビリ」か?
│
├─ Yes → STEP 3へ
└─ No → ❌ 医療費控除対象外
(入浴介助・掃除・洗濯等が主目的)
STEP 3:担当者は「医療系有資格者」(看護師・理学療法士等)か?
│
├─ Yes → ✅ 医療費控除対象
└─ No → ❌ 医療費控除対象外
(介護福祉士・ヘルパーのみ)
5. 医療費控除の計算式と申告書の書き方
5-1. 控除額の計算例
【事例】 在宅療養中の母親(75歳)のために、1年間に以下の費用を支払った場合
| 費用項目 | 年間金額 | 控除対象 |
|---|---|---|
| 訪問看護基本療養費(自己負担1割) | 84,000円 | ✅ |
| 特別管理加算(自己負担1割) | 18,000円 | ✅ |
| 訪問リハビリ(自己負担1割) | 36,000円 | ✅ |
| 居宅療養管理指導(医師)(自己負担1割) | 12,000円 | ✅ |
| 訪問介護(身体介護・生活援助) | 120,000円 | ❌ |
| 通所介護(デイサービス)費用 | 96,000円 | ❌ |
| 医療費控除対象合計 | 150,000円 |
医療費控除額 = 150,000円 − 0円(保険補填なし) − 100,000円
= 50,000円
所得税軽減額(税率20%の場合)= 50,000円 × 20% = 10,000円
住民税軽減額(税率10%) = 50,000円 × 10% = 5,000円
合計節税効果 = 15,000円
5-2. 必要書類チェックリスト
確定申告で医療費控除を申請する際に必要な書類は以下のとおりです。
提出書類(税務署へ)
– □ 確定申告書(第一表・第二表)
– □ 医療費控除の明細書(令和2年分以降は領収書の添付不要)
手元に保管すべき書類(5年間保存義務あり)
– □ 訪問看護の領収書(訪問看護基本療養費・各加算の記載があるもの)
– □ 訪問リハビリの領収書
– □ 居宅療養管理指導の領収書
– □ 医師の訪問看護指示書の写し(任意だが証拠として有効)
– □ 医療費のお知らせ(健康保険組合・後期高齢者医療広域連合発行)
重要: 医療費控除の明細書には、「支払先の名称」「医療を受けた方の氏名」「支払った医療費の金額」「保険金等で補填された金額」を記入します。訪問介護など対象外のサービスは記入しないよう注意してください。
5-3. 申告書の記入方法(医療費控除の明細書)
記入例:
| 医療を受けた人 | 病院・薬局等の名称 | 医療費の内容 | 支払医療費 | 補填額 |
|---|---|---|---|---|
| 母 △△ 花子 | ○○訪問看護ステーション | 訪問看護・特別管理加算 | 102,000円 | 0円 |
| 母 △△ 花子 | ××リハビリ訪問看護ST | 訪問リハビリテーション | 36,000円 | 0円 |
| 母 △△ 花子 | △△クリニック | 居宅療養管理指導 | 12,000円 | 0円 |
訪問介護(ヘルパー)費用は記入しません。
6. よくある申告ミスと注意点
ミス①:訪問介護を訪問看護と混同して申告
最も多いミスです。サービス提供者の職種(ヘルパーか看護師か)、領収書の発行元(訪問介護事業所か訪問看護ステーションか)を必ず確認してください。
ミス②:介護保険の「訪問看護」と「医療保険の訪問看護」の混同
介護保険適用の訪問看護でも、医師の指示に基づく医療行為が主であれば控除対象です。保険種別ではなくサービス内容で判断します。
ミス③:デイサービスとデイケアの混同
- デイサービス(通所介護):レクリエーション・入浴サービスが主 → ❌ 対象外
- デイケア(通所リハビリテーション):医師指示のリハビリが主 → ✅ 対象
ミス④:福祉用具(介護ベッド・車いす等)を計上
福祉用具の購入・レンタル費用は、医療費控除の対象外です(障害者控除とは別の制度です)。
ミス⑤:ケアプランの作成費(居宅介護支援)を計上
ケアマネジャーによるケアプラン作成費は介護保険から全額給付されており、自己負担がないため計上不要ですが、仮に自己負担があったとしても医療費控除の対象外です。
FAQ:訪問看護・居宅介護の医療費控除でよくある質問
Q1. 訪問看護と訪問介護を同じ事業所から受けています。まとめて計上できますか?
A. まとめて計上できません。同一事業所でも、訪問看護(看護師が行う医療行為)と訪問介護(ヘルパーによる身体介護・生活援助)は別サービスです。それぞれの領収書に記載されたサービス内容を確認し、訪問看護分のみを計上してください。
Q2. 訪問看護の領収書が「介護保険」適用と書かれています。控除対象になりますか?
A. なります。介護保険が適用される訪問看護であっても、医師の訪問看護指示書に基づき看護師が医療行為を行っていれば、医療費控除の対象です。保険種別(医療保険か介護保険か)ではなく、サービスの内容で判断します。
Q3. ターミナルケア(看取りケア)の費用はすべて控除対象になりますか?
A. 訪問看護師が行う医療行為・処置・ターミナルケア加算は対象です。ただし、同時に提供された身体介護(食事介助・体位変換の介護部分)は対象外となる場合があります。訪問看護ステーションに「医療費控除対象証明書」を依頼すると確認が容易です。
Q4. 訪問リハビリと通所リハビリ(デイケア)はどちらも対象ですか?
A. いずれも医師の指示書に基づいて理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が実施するリハビリテーションであれば、医療費控除の対象です。ただしリハビリ時の入浴サービス・食事代など介護的要素が混在する部分は対象外となります。
Q5. 申告する年に間に合わなかった医療費はどうなりますか?
A. 医療費控除は「支払った年分」の申告が原則です。2023年に支払った費用は2024年3月15日までの確定申告(2023年分)で申告します。申告を忘れた場合でも、5年以内であれば更正の請求で還付を受けることができます。
Q6. 「医療費のお知らせ」に訪問看護が載っていません。どうすれば証明できますか?
A. 後期高齢者医療広域連合や健康保険組合が発行する「医療費のお知らせ」に反映されるまでタイムラグがある場合があります。訪問看護ステーションが発行する領収書・明細書を保管しておけば、確定申告の証拠書類として有効です。
まとめ
訪問看護・居宅介護の医療費控除における判定基準を改めて整理します。
| 判定ポイント | 控除OK | 控除NG |
|---|---|---|
| 医師の指示書 | あり | なし |
| サービスの主目的 | 医療行為・治療 | 生活援助・身体介護 |
| 担当者の資格 | 看護師・療法士等 | 介護福祉士・ヘルパー |
| 代表的なサービス | 訪問看護・訪問リハビリ | 訪問介護・デイサービス |
在宅医療・介護の費用は年間を通じると大きな金額になります。正しい判定と適切な申告で、使える控除は確実に活用しましょう。
申告に不安がある場合は、税務署の無料相談(毎年2~3月に開設)またはお住まいの地区の税理士会の相談窓口をご利用ください。
最終更新:2025年1月/本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の判断については税務署または税理士にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 訪問看護の費用は医療費控除の対象になりますか?
A. はい。医師の訪問看護指示書に基づき提供される訪問看護は医療費控除の対象です。領収書に「訪問看護基本療養費」などの記載がある場合は対象になります。
Q. 訪問介護(ホームヘルパー)の費用は医療費控除に使えますか?
A. いいえ。訪問介護は身体介護や生活援助が主目的であり、原則として医療費控除の対象外です。医師の指示がなければ対象になりません。
Q. 介護保険が適用される訪問看護は医療費控除の対象ですか?
A. はい。医師の指示のもと医療行為が中心であれば、介護保険が適用される訪問看護でも医療費控除の対象となります。
Q. 入浴介助や排泄介助は医療費控除の対象になりますか?
A. いいえ。入浴介助や排泄介助は身体介護が主目的のため、医療費控除の対象外です。医療行為が主目的でない場合は対象になりません。
Q. 訪問看護と介護サービスの区分が不明な場合、どうしたら良いですか?
A. 訪問看護ステーションやケアマネジャーに「医療費控除対象証明書」の発行を依頼することをお勧めします。判断が明確になり、申告時のトラブルを防げます。

