給与天引き保険料と医療費控除は両方使える?重複申請を徹底解説

給与天引き保険料と医療費控除は両方使える?重複申請を徹底解説 高額療養費制度

給与明細を見ると、毎月「健康保険料」「厚生年金」「雇用保険」などがずらりと並んでいます。「こんなに引かれているのだから、医療費控除は使えないのでは?」と誤解している方は少なくありません。

結論を先にお伝えします。給与天引きの保険料と医療費控除は、重複して申請できます。 しかも高額療養費制度との組み合わせも問題ありません。

この記事では、会社員が混乱しやすい「給与所得控除・医療費控除・高額療養費」の三つの制度の関係を整理し、源泉徴収票の見方から確定申告の手順、還付額の計算例までを丁寧に解説します。

結論:給与天引きの保険料と医療費控除は「重複して使える」

給与天引きの保険料と医療費控除が「両方使える」理由は、それぞれが異なる法律を根拠とした、まったく独立した制度だからです。

制度 根拠法 実施機関 性質
高額療養費制度 健康保険法63条・74条 健康保険組合・協会けんぽ・市町村 医療保険給付(現物還付)
社会保険料控除 所得税法74条 税務署(年末調整で処理) 所得控除(税制優遇)
医療費控除 所得税法73条 税務署(確定申告で処理) 所得控除(税制優遇)

三つの制度の間に「どちらかしか使えない」「一方を使ったら他方は減額される」という相殺・調整規定は存在しません。国税庁も公式に両方の適用を認めています。

ポイント: 健康保険料は「払った医療費の一部負担を軽くする仕組み」、医療費控除は「実際に払った医療費で税金を減らす仕組み」。目的が違うため重複禁止にはなりません。

「給与天引き」の中に含まれるものを整理する

給与明細の「控除」欄には複数の項目が並んでいます。まずここを整理しないと、制度の理解が混乱します。

天引き項目 分類 年末調整での処理 確定申告との関係
健康保険料 社会保険料控除 年末調整で自動処理 原則追加申告不要
厚生年金保険料 社会保険料控除 年末調整で自動処理 原則追加申告不要
雇用保険料 社会保険料控除 年末調整で自動処理 原則追加申告不要
介護保険料(40歳以上) 社会保険料控除 年末調整で自動処理 原則追加申告不要
所得税(源泉徴収) 税額の仮払い 年末調整で精算 医療費控除がある場合は確定申告
住民税 税金(特別徴収) 年末調整対象外 翌年6月から再計算

重要: 「給与所得控除」は給与天引きとはまったく別の概念です。給与所得控除は、給与収入から自動的に差し引かれる「仕事にかかる経費の概算額」であり、申請するものではなく自動適用されます。医療費控除はこれとは別枠で申告できます。

混同されやすい3つの制度の違いを図解

【給与所得控除】
  └ 給与収入 → 自動で差し引き → 給与所得を算出
      ※申請不要・医療費と無関係

【社会保険料控除(給与天引き分)】
  └ 健康保険料・厚生年金等 → 年末調整で所得から控除
      ※申請不要・医療費と無関係

【医療費控除(確定申告が必要)】
  └ 実際に払った医療費 → 補填額を引く → 10万円超の部分を控除
      ※別途確定申告が必要

この三つはそれぞれが独立した控除枠を持っています。給与所得控除が多ければ医療費控除が減る、ということは一切ありません。

医療費控除の基本:計算式と対象医療費

医療費控除額の計算式

医療費控除の控除額は、以下の計算式で求めます。

医療費控除額 = (年間支払医療費合計 − 保険等の補填額) − 10万円
※ 総所得金額が200万円未満の場合は10万円ではなく「総所得金額×5%」

還付される税額(概算):

還付税額 = 医療費控除額 × 所得税率

所得税率は課税所得によって5~45%の7段階があります。年収500万円前後の会社員であれば概ね20%程度が目安です。

医療費控除の対象になるもの・ならないもの

対象になる(○) 対象外(×)
医師・歯科医師による診察・治療費 美容目的の治療(美容整形等)
入院費(食事代を含む) 健康診断・人間ドック(疾病発見につながった場合は例外的に対象)
治療目的の医薬品購入 予防接種費用
通院のための公共交通費 自家用車のガソリン代・駐車場代
介護老人保健施設の利用料 差額ベッド代(個室希望など任意のもの)
義歯・義手・義足 先進医療(技術料部分)※制度により異なる
助産師による分娩介助 健康増進目的のサプリメント

「補填額」として差し引かなければならないもの

ここが最大のポイントです。 医療費控除では、受け取った給付金や還付金を「補填額」として医療費から差し引かなければなりません。

差し引くもの:

  • 高額療養費として還付された金額
  • 民間医療保険の入院給付金・手術給付金
  • 出産育児一時金(42万円が補填額)
  • 生命保険会社からの入院費補助金

差し引かなくていいもの(重要):

  • 毎月天引きされている健康保険料
  • 厚生年金保険料
  • 給与所得控除の金額

健康保険料は「保険の掛け金」であり、個別の医療費に対する「補填」ではないため、控除額の計算に影響しません。 これが「給与天引き保険料と医療費控除は重複申請できる」理由の核心です。

高額療養費と医療費控除の「正しい関係」

高額療養費を受け取った後の医療費控除計算

高額療養費は「補填額」として差し引く必要があります。ただし、差し引いた後の残額が10万円を超えれば、医療費控除の申請は可能です。

計算例: 年収500万円(所得税率20%)の会社員Aさんの場合

・年間医療費支払額:   80万円
・高額療養費還付額:  △50万円
・民間保険給付金:   △10万円
─────────────────────────
・差引後の医療費:    20万円
・基準額(10万円):  △10万円
─────────────────────────
・医療費控除額:      10万円

・還付される所得税:  10万円 × 20% = 2万円
・還付される住民税:  10万円 × 10% = 1万円
・合計節税効果:              約3万円

高額療養費を受け取った後でも、控除の余地が十分に残ることがわかります。

限度額適用認定証と医療費控除の関係

「限度額適用認定証」を使って窓口支払いを自己負担限度額に抑えた場合、その窓口で支払った実額が医療費控除の対象になります。還付申請ではなく最初から支払いを抑えているため、高額療養費の「補填額」は計上不要です。

方法 医療費控除の計算
窓口で全額支払い → 後から高額療養費申請 全額支払い額 − 高額療養費還付額 = 控除対象
限度額適用認定証を使用 窓口支払額(限度額内)がそのまま控除対象

源泉徴収票の見方:確定申告に必要な数字を探す

確定申告で医療費控除を申請する際、源泉徴収票から以下の数字を使います。

【源泉徴収票の主要記載欄】

┌─────────────────────────────────┐
│ 支払金額(年収)         : ●●●万円 ← ①
│ 給与所得控除後の金額     : ●●●万円 ← ②(自動計算済)
│ 所得控除の額の合計額     : ●●●万円 ← ③
│ 源泉徴収税額             : ●●●万円 ← ④ 還付基準
│ 社会保険料等の金額       : ●●●万円 ← ⑤ 健保・年金等
└─────────────────────────────────┘
  • ①支払金額:年収(グロス)
  • ②給与所得控除後の金額:給与所得控除が差し引き済みの金額(自動適用済みなので追加手続き不要)
  • ④源泉徴収税額:すでに納めた所得税。医療費控除を適用することでこの金額の一部が還付されます
  • ⑤社会保険料等の金額:天引きされた健康保険料・厚生年金等の合計。すでに社会保険料控除として適用済み

確認ポイント: ②が記載されていれば給与所得控除は処理済みです。医療費控除は②から④の計算過程にある「所得控除」の一つとして新たに加算できます。

確定申告の手順:医療費控除の申告方法(会社員版)

STEP 1:医療費の領収書を集める

1月1日~12月31日の期間に支払った医療費の領収書を種類別に整理します。交通費については領収書がないことが多いため、メモや通院記録で代用可能です。

STEP 2:医療費の明細書を作成する

国税庁の書式「医療費控除の明細書」に記入します(領収書の添付は不要になりましたが、5年間の保管義務があります)。

記入項目:
– 医療を受けた人の氏名
– 病院・薬局の名称
– 支払った医療費の額
– 保険等で補填される金額(高額療養費・保険給付金等)

STEP 3:e-Taxまたは書面で確定申告書を作成

会社員で医療費控除のみを申告する場合は「還付申告」に該当します。

e-Tax(推奨)の流れ:

  1. 国税庁「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
  2. 「給与所得者の還付申告」を選択
  3. 源泉徴収票の数字を入力
  4. 医療費控除の明細を入力
  5. マイナンバーカードまたはID・パスワード方式で送信

必要書類一覧:

書類 入手先 備考
源泉徴収票 勤務先 1月中旬までに配布
医療費控除の明細書 国税庁HPからダウンロード 自作可
医療費の領収書 各医療機関 申告書への添付不要(5年保管)
高額療養費通知書 協会けんぽ・健保組合 補填額の確認用
マイナンバーカードまたは通知カード 本人 申告書への記載に使用

STEP 4:申告期間と還付タイミング

申告区分 受付期間 還付時期の目安
確定申告(通常) 翌年2月16日~3月15日 申告後1~2ヶ月
還付申告のみ(医療費控除等) 翌年1月1日~5年間遡及可能 申告後3~8週間

重要: 医療費控除は還付申告のため、確定申告期間(2/16~3/15)より早く1月1日から申請できます。また過去5年分まで遡って申請が可能です。2020年分であれば2025年12月31日まで申告できます。

具体的な計算例:3つのパターン

パターン①:入院した会社員(高額療養費あり)

  • 年収:600万円、所得税率:20%
  • 年間医療費:120万円
  • 高額療養費還付:80万円
  • 民間保険給付:10万円
医療費控除額 =(120万円 − 80万円 − 10万円)− 10万円 = 20万円
還付所得税   = 20万円 × 20% = 4万円
還付住民税   = 20万円 × 10% = 2万円
合計還付     = 約6万円

パターン②:複数の家族の医療費を合算

  • 本人の医療費:4万円(通院・薬代)
  • 配偶者の医療費:3万円
  • 子どもの医療費:5万円
  • 補填額:なし
  • 合計:12万円、年収400万円(所得税率10%)
医療費控除額 = 12万円 − 10万円 = 2万円
還付所得税   = 2万円 × 10% = 2,000円
還付住民税   = 2万円 × 10% = 2,000円
合計還付     = 約4,000円

ポイント: 家族(生計を一にする親族)の医療費は合算できます。高額収入者がまとめて申告すると税率が高い分、還付額が増えます。

パターン③:総所得200万円未満のケース

  • 年間医療費:15万円、補填なし
  • 総所得金額:150万円(所得税率5%)
基準額       = 150万円 × 5% = 7.5万円
医療費控除額  = 15万円 − 7.5万円 = 7.5万円
還付所得税   = 7.5万円 × 5% = 3,750円
還付住民税   = 7.5万円 × 10% = 7,500円

所得が低い場合は基準額が10万円より低くなるため、より少ない医療費でも控除を受けやすくなります。

よくある誤解と注意点

誤解①:健康保険料を払っているから医療費控除は使えない

誤りです。 健康保険料は社会保険料控除として年末調整で処理済みですが、これは医療費控除とは別の控除枠です。医療費控除はさらに上乗せできます。

誤解②:会社員は年末調整で終わりだから確定申告は不要

医療費控除のみ確定申告が必要です。 年末調整では医療費控除は申告できません。ただし、年末調整後でも還付申告として翌年1月から申請できます。

誤解③:高額療養費を受け取ったら医療費控除は使えない

誤りです。 高額療養費は補填額として差し引きますが、差し引いた後の残額が10万円を超えれば医療費控除の申告が可能です。

誤解④:医療費控除と給与所得控除は合計に上限がある

誤りです。 両者はまったく別の計算で処理され、合算制限はありません。

注意点:セルフメディケーション税制との選択適用

医療費控除には「セルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費の医療費控除の特例)」という選択肢もあります。スイッチOTC医薬品の購入費が1万2,000円を超えた場合に最大8万8,000円まで控除できる制度ですが、通常の医療費控除とは選択適用のため、両方同時には使えません。どちらが有利かを計算して選びましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 確定申告の経験がない会社員でも申告できますか?

はい、できます。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は画面の案内に従って入力するだけで申告書が完成します。e-Taxならそのままオンライン提出が可能で、税務署に行く必要もありません。不明点がある場合は税務署の相談窓口(1月~3月は予約制)を活用してください。


Q2. 過去の医療費控除を申告し忘れていました。今からでも申告できますか?

できます。医療費控除の還付申告は、申告期限(翌年12月31日)から5年以内であれば遡及申告が可能です。たとえば2020年分であれば2025年12月31日まで申告できます。必要な書類は当時の源泉徴収票と医療費の領収書(またはメモ)です。


Q3. 高額療養費の還付通知をなくしてしまいました。補填額はどうやって確認しますか?

協会けんぽ加入者であれば「協会けんぽの医療費のお知らせ」で確認できます。健保組合加入者は組合の窓口に問い合わせてください。不明な場合は、実際に補填された金額を確認できる書類(振込通知等)を探すか、健保組合に再発行を依頼します。


Q4. 歯の矯正費用は医療費控除の対象になりますか?

子どもの歯列矯正は成長過程の歯並び・咬合改善という「医療行為」と認められるため対象です。大人の矯正は原則として審美目的とみなされ対象外ですが、咬合不良による機能障害の治療として医師が必要と認めた場合は対象になるケースがあります。歯科医師に確認のうえ、診断書を保管しておくと安心です。


Q5. 共働きで、夫婦どちらが申告すべきですか?

所得税率が高い方(年収が高い方)がまとめて申告するほうが還付額が増えます。ただし「生計を一にする」という要件があるため、別居の場合などは適用に注意が必要です。合算できる医療費の対象は本人・配偶者・子ども・親など生計を共にする親族全員です。


Q6. 医療費控除を申告すると住民税も安くなりますか?

はい。確定申告で医療費控除を申告すると、その情報が自動的に市区町村に通知されます。翌年6月からの住民税(特別徴収)の計算に反映され、約10%分が軽減されます。所得税と住民税の両方で節税効果が得られます。


まとめ

最後に、この記事の要点を整理します。

確認事項 答え
給与天引き保険料と医療費控除は重複申請できる? ✅ できる(根拠法が異なる別制度)
高額療養費を受け取っても医療費控除は申告できる? ✅ 補填額を差し引いた残額が10万円超なら可能
健康保険料は医療費控除の「補填額」に含まれる? ❌ 含まれない(掛け金であり補填ではない)
会社員の医療費控除申告はいつまでに? 翌年1月1日~、5年間遡及可能
年末調整だけで医療費控除は完了する? ❌ 医療費控除は別途確定申告が必要

医療費が多くかかった年は、必ず高額療養費制度と医療費控除の両方を活用しましょう。「どうせ少額だから」と諦めず、まずは計算してみてください。数千円でも還付されれば、申告の手間は十分に報われます。

e-Taxを活用すれば自宅から数十分で完結できます。源泉徴収票と領収書を手元に用意して、ぜひ申告に挑戦してみてください。

免責事項: 本記事は2025年時点の制度情報をもとに作成しています。税制・保険制度は改正される場合があります。個別の事情については税務署や社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談ください。

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