保険料滞納でも高額療養費は申請できる?相殺と対処法を解説

保険料滞納でも高額療養費は申請できる?相殺と対処法を解説 高額療養費制度

「保険料を滞納しているけど、入院費が高額になってしまった。高額療養費はもらえるの?」——申請自体はできます。ただし滞納額と給付金が相殺される場合があります。

滞納中だからといって、高額療養費の申請をあきらめる必要はありません。しかし滞納月数によっては給付が一部制限されたり、受け取れる還付金が大幅に減ったりするケースもあります。本記事では、保険料の滞納状況別に申請の可否・相殺の仕組み・具体的な解消手順を徹底解説します。医療費の負担を少しでも減らすために、ぜひ最後までご確認ください。


保険料を滞納していても高額療養費の申請はできるのか?

結論:申請は可能。ただし「相殺」と「給付制限」に注意

保険料を滞納していても、高額療養費の申請手続き自体は行えます。高額療養費は健康保険法第115条に基づく給付権であり、滞納を理由に申請そのものを拒否することはできません。

しかし、健康保険法第113条には「保険料その他徴収金を滞納する者に対しては、期限を定め督促したにもかかわらず滞納している場合、保険給付の全部または一部を行わないことができる」という規定があります。さらに同法の相殺規定により、還付金と滞納保険料が差し引かれる仕組みが法律上認められています。

整理すると、以下の3パターンに分かれます。

滞納状況 申請の可否 実際の受取額
滞納なし・3ヶ月未満 ◎ 申請可能 満額支給
滞納3ヶ月以上 ○ 申請可能 給付金から滞納額を相殺して支給
滞納1年以上(保険証返納後) △ 要確認 給付一時停止の可能性あり/窓口全額負担

「申請できないはず」という誤解が最も危険です。 滞納中でも申請しなければ還付金はゼロのまま。まず申請手続きを行うことが第一歩です。


保険料滞納と高額療養費の「相殺」の仕組みを理解する

相殺とは何か

相殺とは、「AさんがBさんに対して持つ債権」と「BさんがAさんに対して持つ債権」を対当額で消滅させる法律上の手続きです。高額療養費の文脈では、次のような関係になります。

  • あなたが保険者(協会けんぽ・国保など)に対して持つ権利:高額療養費の還付金(給付金)
  • 保険者があなたに対して持つ権利:未納の保険料(滞納保険料)

この2つを差し引きした金額が、実際に振り込まれる還付額となります。

相殺の計算式

実際の受取額 = 高額療養費の支給額 − 滞納保険料の総額

具体例で確認しましょう

【前提条件】
– 年収約370万円(標準報酬月額28万円)の会社員
– 同月の医療費:総額60万円(3割負担=18万円を窓口支払い済み)
– 自己負担限度額:80,100円+(60万円-267,000円)×1%=87,430円
– 高額療養費の支給額:180,000円-87,430円=92,570円
– 滞納保険料の総額:45,000円(3ヶ月分)

実際の受取額 = 92,570円 − 45,000円 = 47,570円

滞納がなければ92,570円を受け取れるところ、相殺によって47,570円の受取となります。差額の45,000円は滞納保険料の充当に使われます。

相殺はいつ・誰が行うのか

相殺のタイミングと主体は加入する保険の種類によって異なります。

保険の種類 相殺の判断主体 相殺のタイミング
協会けんぽ 全国健康保険協会(各都道府県支部) 支給決定時に自動的に実施
健保組合 各健保組合 組合の規定による(支給前が多い)
国民健康保険 市区町村(保険年金課等) 支給決定時に自動的に実施
後期高齢者医療制度 広域連合 支給決定時に実施

国民健康保険(国保)の場合は特に注意が必要です。国保は市区町村が運営しており、窓口担当者の裁量や自治体によって対応が異なるケースがあります。事前に「相殺後の受取額がいくらになるか」を担当窓口に確認することを強くおすすめします。


滞納月数別:給付制限の具体的な内容

ケース①:滞納3ヶ月未満

給付制限は原則として発動しません。高額療養費の申請を行えば、滞納保険料との相殺が行われた後、残額が支給されます。ただし相殺後の受取額がマイナスになることはなく、ゼロが下限です(滞納額が給付額を上回る場合、残りの滞納額は引き続き請求されます)。

ケース②:滞納3ヶ月以上(保険証有効)

健康保険法第113条の規定に基づき、保険者は給付の一時差し止めまたは相殺を行うことができます。この段階では保険証はまだ有効なため、医療機関での窓口負担は通常の3割のままです。

  • 高額療養費の申請:可能
  • 支給方法:給付金から滞納保険料を相殺した残額を支給
  • 差し止め後の対応:分割納付の相談を行うことで差し止め解除の交渉が可能

ケース③:滞納1年以上(短期被保険者証・資格証明書の段階)

国民健康保険の場合、保険料を1年以上滞納すると市区町村から短期被保険者証(有効期間が短い保険証)が交付されます。さらに滞納が続くと資格証明書に切り替わります。

書類の種類 窓口での負担割合 高額療養費の取扱い
通常の保険証 3割負担 申請後に還付
短期被保険者証 3割負担 申請後に還付(相殺あり)
資格証明書 10割負担(全額) 給付は一時停止(後日精算可)

資格証明書の状態でも医療費の精算は受けられます。 窓口で全額支払った後、滞納を解消または分割納付の誓約を行うことで、保険給付分(7割)と高額療養費を後日申請できます。「全額払ったから終わり」ではなく、必ず申請手続きを行ってください。

協会けんぽ・健保組合の場合は、被用者保険のため給与から天引きされるケースが多く、資格証明書が交付されるケースは稀です。ただし退職後に任意継続保険料を滞納した場合は資格喪失となるため、別途国保加入の手続きが必要になります。


申請手順:滞納状況別のステップガイド

STEP1:現在の滞納状況を確認する(申請前の必須確認)

まず加入している保険者に連絡し、以下の4点を確認します。

✅ 確認事項チェックリスト
□ 現在の滞納月数
□ 滞納保険料の総額(円)
□ 給付制限・差し止めの有無
□ 相殺予定額(概算でも可)
加入保険の種類 確認先 連絡方法
協会けんぽ 都道府県支部 電話・窓口
健保組合 勤務先の健保組合 電話・窓口
国民健康保険 市区町村の保険年金課等 電話・窓口
後期高齢者医療 都道府県広域連合 電話・窓口

STEP2:高額療養費の申請書類を準備する

共通の必要書類(原則)

書類名 入手先 備考
高額療養費支給申請書 保険者の窓口・ホームページ 加入保険ごとに書式が異なる
診療報酬明細書(レセプト)のコピー 医療機関の窓口で発行依頼 支払済みの領収書でも可
医療費の領収書(原本) 医療機関で受け取り 保管必須
健康保険証(または資格証明書)のコピー 手元にある証書 有効期限の確認も行う
振込先口座の通帳コピー 本人名義の銀行口座 相殺後の残額振込先
本人確認書類 運転免許証・マイナンバーカード等 窓口申請時に提示

国保の場合の追加書類(市区町村によって異なる場合あり)
– 世帯主のマイナンバーがわかる書類
– 世帯全員の住民票(同世帯の合算申請時)

STEP3:申請書を提出する

申請先は加入する保険の種類によって異なります。

  • 協会けんぽ・健保組合:勤務先の総務・人事部経由か、直接保険者へ郵送
  • 国民健康保険:居住する市区町村の窓口(郵送可の自治体もあり)
  • 後期高齢者医療制度:市区町村の窓口経由で広域連合へ

申請期限は診療月の翌月1日から2年以内です。期限を過ぎると時効により請求権が消滅します。滞納問題を解決してから申請しようと後回しにしているうちに時効を迎えるケースがあるため、申請と滞納解消は並行して進めることが重要です。

STEP4:相殺後の支給額を受け取る

申請から支給まで通常3〜4ヶ月程度かかります(保険者により異なります)。相殺が行われる場合、支給通知書に「相殺額」「支給額」の内訳が記載されるため、必ず確認してください。


滞納を解消するための具体的な方法

方法①:一括納付

最も確実な方法です。滞納保険料をまとめて支払うことで、給付制限が解除され、以降の高額療養費は満額受け取れるようになります。

方法②:分割納付(納付誓約)

一括納付が難しい場合、保険者に分割納付の相談をすることができます。分割納付の誓約書を提出することで、差し止め中の給付が再開されるケースがあります。

分割納付の相談手順
1. 加入保険者の窓口または電話で「分割納付の相談をしたい」と申し出る
2. 収入・支出の状況を説明し、毎月の納付可能額を提示
3. 誓約書(分割納付計画書)を作成・提出
4. 誓約に従って毎月納付を継続
5. 給付制限の解除を書面で確認

国民健康保険の場合は特に分割納付の交渉が重要です。 市区町村の担当者は「払えないなら全額払って」という姿勢ではなく、分割納付の相談に応じる義務があります。「相談したら短期証を発行してもらえた」という事例も多くあります。遠慮せず窓口に相談しましょう。

方法③:納付猶予・減額免除制度の活用

収入が著しく低下した場合や、失業・自然災害等の特別な事情がある場合は、保険料の減額・免除・猶予を申請できることがあります。

制度 対象 申請先
国保保険料の減額・免除 収入が著しく減少した世帯 市区町村の窓口
社会保険料の猶予(国税通則法準用) 災害・事業廃止等の特別な事情 年金事務所・健保組合
生活困窮者自立支援制度 生活全般が困窮している方 市区町村の福祉担当窓口

滞納解消後の申請:過去分の高額療養費は遡って請求できるか

遡及申請は原則「2年以内」

過去の滞納期間中に発生した医療費についても、診療月の翌月1日から2年以内であれば申請可能です。「あの時滞納していたから申請できなかった」と思い込んでいた分も、まとめて申請できるケースがあります。

ただし相殺は「申請時点の滞納額」で計算される

重要な点として、遡及申請の場合でも、支給決定時に残っている滞納保険料が相殺の対象となります。申請を先送りにすることで滞納保険料が増え、相殺額が大きくなるという悪循環を防ぐため、できる限り早期に申請することをおすすめします。

【遡及申請の優先順位の考え方】
1. 2年の時効が近い古い診療月分を優先して申請
2. 滞納解消(または分割誓約)と並行して申請手続きを進める
3. 相殺後の残額が少なくても、申請することで滞納保険料の充当が進む

限度額適用認定証の取得も忘れずに

今後も継続して治療が必要な場合は、限度額適用認定証の取得を検討してください。この証明書を医療機関の窓口に提示することで、最初から自己負担限度額までしか支払わなくて済むため、高額療養費の還付を待つ間の資金的な負担を大幅に軽減できます。

ただし、保険料を滞納している場合、限度額適用認定証が発行されないケースがあります。 滞納解消または分割納付の誓約を行ったうえで申請することが必要です。


よくある誤解・注意点まとめ

❌ 誤解①「滞納があると申請自体ができない」

→ ✅ 申請は可能です。 拒否されることはありません。ただし相殺・差し止めが行われる場合があります。

❌ 誤解②「相殺されたら損をする」

→ ✅ 申請しなければ還付金はゼロです。 相殺されても残額が出れば受け取れますし、相殺分は滞納保険料の解消に充当されるため、長期的には債務が減ります。

❌ 誤解③「資格証明書では医療を受けられない」

→ ✅ 医療は受けられます。 窓口での支払いが全額になるだけで、後から申請すれば保険給付分は還付されます。

❌ 誤解④「滞納が解消してから申請すればよい」

→ ✅ 2年の時効があります。 解消を待っているうちに時効になるリスクがあるため、並行して申請を進めてください。

❌ 誤解⑤「健保と国保は同じルールで動く」

→ ✅ 制度・手続き・対応が異なります。 特に国保は市区町村ごとに対応が異なるため、必ず加入している保険者に直接確認してください。


よくある質問(FAQ)

会社員ですが、社会保険料(健康保険・厚生年金)を自分で滞納することはあり得ますか?

A. 会社員の場合、健康保険料と厚生年金保険料は給与から天引きされるため、個人が直接滞納するケースはほとんどありません。ただし、任意継続被保険者(退職後に引き続き健保に加入している方)の場合は、自分で保険料を納付する必要があり、滞納すると資格を喪失します。この場合は国保への加入手続きを検討してください。


高額療養費の申請をしたら、保険者から「相殺します」という通知が来ました。拒否することはできますか?

A. 法律(健康保険法第113条)に基づく相殺であるため、拒否することは原則できません。ただし、相殺の対象となる滞納保険料の金額に誤りがないかを必ず確認してください。計算が誤っている場合は異議申し立てが可能です。また、相殺額に納得できない場合は、社会保険労務士や法テラスへの相談もご検討ください。


家族が入院して高額療養費を申請したいのですが、世帯主が保険料を滞納しています。家族の給付も制限されますか?

A. 国民健康保険の場合は、世帯単位で保険料が管理されているため、世帯主の滞納が家族の給付制限に影響する可能性があります。 一方、会社員の健保組合・協会けんぽでは、被保険者本人の滞納が原則問題となるため、世帯主の問題が扶養家族の給付に直接影響するケースは少ないです。世帯全体の状況を確認するため、保険者に直接問い合わせることをおすすめします。


市区町村の窓口で「滞納があるから申請できない」と言われました。どうすればよいですか?

A. これは誤った対応です。高額療養費の申請権は法律で保障されており、滞納を理由に申請を受け付けないことはできません。窓口担当者に「健康保険法第115条に基づく高額療養費の支給申請を行いたい」と明確に伝えてください。それでも対応されない場合は、上席の担当者や係長・課長への対応を求めるか、都道府県の国民健康保険担当窓口(都道府県庁の保健医療課等)に相談することを検討してください。


滞納保険料と相殺されると、所得税の医療費控除の計算はどうなりますか?

A. 医療費控除は「実際に支払った医療費」から「保険金などで補填された金額」を差し引いて計算します。相殺後の実際の受取額(還付金)が補填額となります。例えば、高額療養費が9万円支給されたが4万5千円が相殺された場合、補填された金額は4万5千円として計算します。確定申告時には支給通知書の内容を確認し、正確な金額を記載してください。判断に迷う場合は税務署や税理士にご相談ください。


まとめ:滞納があっても「申請しない」という選択肢はない

本記事の要点を整理します。

ポイント 内容
申請の可否 滞納中でも申請は必ずできる(法律上保障)
相殺の仕組み 給付金から滞納保険料を差し引いた残額が支給される
滞納1年以上 保険証返納・資格証明書の段階では給付が一時停止されるリスク
遡及申請 診療月翌月1日から2年以内であれば過去分も申請可能
並行手続き 滞納解消(または分割納付誓約)と申請を同時進行で進める
時効に注意 2年を過ぎると請求権が消滅するため、先送りは厳禁

保険料の滞納は誰にでも起こりうる状況です。大切なのは「申請をあきらめないこと」と「早めに保険者に相談すること」の2点です。まず保険者の窓口に連絡し、滞納状況の確認・分割納付の相談・高額療養費の申請を一度に進めることが、医療費負担を最小限に抑える最善策です。

本記事の内容は制度の一般的な解説であり、個別の状況によって対応が異なります。具体的な手続きについては加入している保険者(協会けんぽ・健保組合・市区町村の国保担当窓口)に直接ご確認ください。また、権利の確保に不安がある場合は、社会保険労務士や法テラス(0570-078374)へのご相談も選択肢の一つです。

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