肺血栓塞栓症の治療費と高額療養費【還付額・申請手順2025】

肺血栓塞栓症の治療費と高額療養費【還付額・申請手順2025】 高額療養費制度

突然の息切れや胸痛で緊急入院となった肺血栓塞栓症。集中治療・抗凝固療法・長期入院が重なると、医療費の総額は数十万〜100万円超に達することも珍しくありません。「いったいいくら戻ってくるのか」「どこに何を出せばいいのか」——退院直後の慌ただしい中でも、高額療養費制度を正しく使えば自己負担を大幅に圧縮できます。本記事では、肺血栓塞栓症の治療費の実態から所得区分別の還付額計算、申請書類・期限・よくある落とし穴まで、患者・家族がすぐ行動できる形で徹底解説します。


肺血栓塞栓症の治療費はいくらかかるか

急性期入院でかかる主な費用の内訳

肺血栓塞栓症(Pulmonary Thromboembolism:PTE)は、深部静脈血栓症(DVT)から遊離した血栓が肺動脈を閉塞する緊急性の高い疾患です。治療は主にICU・HCUでの集中管理から始まり、一般病棟へ移行後も抗凝固療法を継続します。典型的な入院期間は10〜21日程度ですが、重症例や合併症があれば1〜2か月に及ぶこともあります。

急性期入院で発生する主な費用は以下のとおりです。

費目 具体的な内容 費用の目安(3割負担)
入院基本料 ICU管理料・一般病棟料 3〜8万円/週
検査料 CT肺血管造影・D-dimer・凝固検査・心エコー 2〜5万円
薬剤費 ヘパリン点滴・ワルファリン・DOAC(アピキサバン等) 1〜10万円
手術・処置料 肺血栓摘出術・IVCフィルター留置(重症時) 10〜30万円
酸素療法・呼吸管理 高流量酸素・人工呼吸管理 1〜5万円
リハビリ料 早期離床・呼吸リハビリ 0.5〜2万円

これらを合計すると、標準的な中等症入院(約2週間)で自己負担額は15〜30万円程度、重症で手術や長期ICU管理が必要な場合は50〜100万円超になることもあります。

ポイント:肺血栓塞栓症の総医療費(保険点数ベース)が100万円を超えるケースは珍しくありません。高額療養費制度の恩恵が最も大きく出る疾患の一つです。

退院後の抗凝固療法(継続治療)の費用

肺血栓塞栓症は退院後も3〜12か月、場合によっては生涯にわたって抗凝固療法を継続します。現在はDOAC(直接経口抗凝固薬)が主流で、代表的な薬剤の薬価目安は以下のとおりです。

薬剤名 1日あたりの薬価(参考) 月額自己負担(3割)
アピキサバン(エリキュース) 約280〜560円 約2,500〜5,000円
リバーロキサバン(イグザレルト) 約330〜670円 約3,000〜6,000円
ワルファリン 約10〜30円 約300〜900円
エドキサバン(リクシアナ) 約300〜560円 約2,700〜5,000円

DOACは薬価が高い分、定期的な血液検査(PT-INR等)が不要なため、検査費用との総額では大きな差がない場合もあります。継続治療中も月単位で自己負担を管理し、高額療養費の申請を忘れないようにしましょう。


高額療養費制度のしくみと計算方法

自己負担限度額とは何か

高額療養費制度(健康保険法第44条)は、同一の暦月(1日〜末日)内に同一の医療機関等で支払った自己負担額が、所得に応じた「自己負担限度額」を超えた場合に、その超過分が後から還付される制度です。

重要なのは「暦月単位」である点です。月をまたいで入院した場合、前の月と後の月でそれぞれ別々に計算されます。入院日程によっては、月の切れ目で上限が「リセット」されてしまうため注意が必要です。

所得区分と自己負担限度額(74歳以下)

70〜74歳未満および69歳以下の方の自己負担限度額は、以下の5区分で決まります(2024年度現在)。

区分 年収目安 自己負担限度額(月額) 多数回該当※
約1,160万円以上 252,600円+(医療費-842,000円)×1% 140,100円
約770〜1,160万円 167,400円+(医療費-558,000円)×1% 93,000円
約370〜770万円 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 44,400円
約370万円未満 57,600円 44,400円
住民税非課税 35,400円 24,600円

※多数回該当:直近12か月以内に同じ世帯で高額療養費の支給が3回以上あった場合、4回目以降は上表「多数回」の低い限度額が適用されます。

自己負担限度額の計算式(区分ウの例)

限度額 = 80,100円 +(総医療費 − 267,000円)× 1%

所得区分の判定方法

所得区分は標準報酬月額(協会けんぽ・健保組合の場合)または住民税課税標準額(国保の場合)で決まります。

  • 協会けんぽ・健保組合:標準報酬月額が保険者に登録されており、限度額適用認定証に区分が記載されます。
  • 国民健康保険:前年度の住民税課税標準額をもとに市区町村が判定します。
  • 後期高齢者医療(75歳以上):別途区分があります(後述)。

計算例:区分ウの患者が総医療費100万円の場合

  • 総医療費(保険点数換算):1,000,000円
  • 自己負担(3割)の計算上の額:300,000円
  • 自己負担限度額(区分ウ):80,100円+(1,000,000-267,000)×1%
                 = 80,100円+7,330円
                 = 87,430円
  • 還付額:300,000円 − 87,430円 = 212,570円

つまり、実際に窓口で30万円払っても、約21万円が後から戻ってくる計算になります。

後期高齢者医療(75歳以上)の自己負担限度額

75歳以上は後期高齢者医療制度が適用され、所得区分が以下のように変わります。

区分 年収目安 自己負担割合 限度額(月額) 多数回該当
現役並みⅢ 約1,160万円以上 3割 252,600円+1% 140,100円
現役並みⅡ 約770〜1,160万円 3割 167,400円+1% 93,000円
現役並みⅠ 約370〜770万円 3割 80,100円+1% 44,400円
一般 年金収入155万円超 1割または2割 18,000円(年間144,000円上限)
低所得Ⅱ 住民税非課税 1割 8,000円 24,600円
低所得Ⅰ 年金80万円以下等 1割 8,000円 15,000円

高齢者は自己負担割合が1〜2割のケースも多く、「一般」区分なら月1万8,000円が上限(年間144,000円上限あり)です。


申請前に使う「限度額適用認定証」

事前申請で窓口負担を最初から抑える

高額療養費は後払いで還付されるのが原則ですが、限度額適用認定証を入院前または入院中に医療機関の窓口へ提示すれば、最初から自己負担限度額以上を支払わずに済みます。入院が決まった段階で即座に申請するのがベストです。

限度額適用認定証の申請方法

協会けんぽの場合

  1. 「健康保険限度額適用認定申請書」を協会けんぽ各都道府県支部に提出(窓口・郵送・電子申請)
  2. 審査後、通常3〜5営業日程度で発送
  3. 有効期限は申請月の初日〜最長1年間(更新可)

健保組合の場合

  • 所属企業の人事・総務部門または健保組合に問い合わせ、組合指定の申請書を提出
  • 審査・交付期間は組合によって異なる

国民健康保険の場合

  • 住所地の市区町村窓口(国保担当課)に申請
  • 即日または翌営業日に交付されるケースが多い

後期高齢者医療の場合

  • 住所地の市区町村窓口(後期高齢者医療担当課)に申請
  • 低所得Ⅱ・Ⅰ区分は自動適用(提示不要)の場合もある

緊急入院で間に合わなかった場合:退院後でも高額療養費の事後申請(還付申請)が可能です。申請期限は診療月の翌月1日から2年間。焦らず手続きを進めましょう。


世帯合算・多数回該当でさらに節約できる

世帯合算のしくみ

同一の健康保険に加入している家族(同一世帯)がいる場合、各人の自己負担額を合算して限度額を計算できます。ただし、21,000円以上の自己負担分のみが合算対象(70歳以上は全額合算可)です。

:夫(区分ウ)が1か月で自己負担20,000円、妻が同月に自己負担30,000円の場合
→ 夫分は21,000円未満のため合算不可。妻分の30,000円のみが合算の対象
→ 合算額30,000円は限度額57,600円(区分エ相当として)を超えないため不支給

:夫の自己負担50,000円、妻30,000円の場合
→ 合計80,000円 > 57,600円(区分エ)→ 差額22,400円が支給

多数回該当で4回目から限度額が下がる

直近12か月(1年間)に同一世帯で3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降は「多数回該当」として限度額が引き下げられます

  • 区分ウの場合:通常 80,100円+α → 多数回 44,400円(固定額)
  • 長期入院・継続治療の患者にとって大きなメリット

抗凝固療法継続中の患者へ:退院後に月々の薬代と外来診療費が高額になった月があれば、その月も高額療養費の対象となります。通院中に自己負担が月57,600円(区分エ)を超えるようであれば、外来の高額療養費申請も忘れずに。


高額療養費の申請手順(事後申請)

ステップ1:申請先を確認する

申請先は加入する健康保険の種類によって異なります。

加入保険 申請先
協会けんぽ 協会けんぽ都道府県支部
健保組合 各健康保険組合
国民健康保険 住所地の市区町村(国保担当窓口)
後期高齢者医療 住所地の市区町村(後期高齢者医療担当窓口)
共済組合 各共済組合

ステップ2:必要書類を準備する

共通で必要な書類

書類名 入手先
高額療養費支給申請書 保険者(協会けんぽHP等からダウンロード可)
健康保険証(写し) 手元
領収書(診療月分) 医療機関の窓口
振込先口座の通帳(写し) 手元
印鑑(認印可) 手元

世帯合算の場合は追加で必要

  • 合算する家族全員分の領収書
  • 全員の健康保険証写し

協会けんぽの場合の注意点:初回申請時は領収書の提出が必要ですが、2回目以降は書類が簡略化されることがあります。また、協会けんぽは申請書提出後に医療機関への受診履歴照会を行うため、領収書は念のため原本を保管しておいてください(コピー提出でよい場合もある)。

ステップ3:申請書を記入して提出する

申請書には以下の情報を記入します。

  1. 被保険者(加入者)の氏名・生年月日・被保険者番号
  2. 診療を受けた医療機関名・診療月
  3. 自己負担額(領収書の金額)
  4. 振込口座情報(被保険者名義が原則)
  5. 世帯合算する場合は合算対象者の情報

提出は郵送・窓口持参・電子申請(一部保険者)が利用できます。

ステップ4:支給決定通知と振込を確認する

申請後、通常2〜3か月程度で支給決定通知書が届き、指定口座に振り込まれます(保険者によって異なる)。審査期間中に書類の不備があれば連絡が来るため、申請書に記載した電話番号は正確に。

申請期限は2年間:診療を受けた月の翌月1日を起算日として2年で時効消滅します(健康保険法第193条)。たとえば2025年1月の診療分は、2027年2月1日が期限です。早めに申請することをおすすめします。


医療費控除と組み合わせて税金も取り戻す

医療費控除とは

高額療養費の還付を受けた後でも、確定申告で医療費控除を申請するとさらに所得税・住民税が軽減されます

医療費控除の計算式

控除額 =(年間医療費の合計 − 高額療養費等の補填額)− 10万円(または総所得の5%、低い方)

注意点:高額療養費や生命保険の給付金など、補填される金額は必ず差し引いてから計算します。

肺血栓塞栓症で医療費控除の対象となる費用

  • 入院治療費(差額ベッド代以外)
  • 処方薬(ワルファリン・DOAC等の抗凝固薬)
  • 通院交通費(公共交通機関利用分。領収書不要だが記録は必要)
  • 在宅酸素療法の器具レンタル費

対象外となる費用

  • 差額ベッド代(患者の都合で選択した個室等)
  • 入院中の食事療養費の標準負担額(一部例外あり)
  • 美容目的の治療

確定申告の手順(還付申告)

  1. 翌年1月1日以降に確定申告書(e-Tax推奨)を作成
  2. 「医療費の明細書」に診療機関・支払額・高額療養費等の補填額を記入
  3. 税務署に提出(郵送・e-Tax・税務署窓口)
  4. 更正の請求なら診療年の翌年から5年以内が期限

活用例(区分ウ・年収500万円の場合)
– 年間医療費:600,000円(高額療養費還付後の実質負担)
– 医療費控除額:600,000 − 100,000 = 500,000円
– 所得税還付(税率20%):約100,000円
– 住民税軽減(10%):翌年度に約50,000円


見落としやすい3つの注意点

月をまたぐ入院には要注意

高額療養費は暦月(1日〜末日)ごとに計算されます。たとえば1月20日に入院して2月10日に退院した場合、1月分と2月分は別々に申請が必要です。それぞれの月の自己負担額が限度額を超えているかどうかを個別に確認してください。

食事療養費・差額ベッド代は対象外

高額療養費の計算には、食事療養費の標準負担額(1食490円など)と差額ベッド代は含まれません。これらは自己負担のまま残ります。経済的に厳しい場合は入院前にソーシャルワーカー(医療相談員)に相談し、差額なしの病室を選ぶことも検討しましょう。

領収書は必ず保管する

医療費控除のためにも、診療機関から受け取った領収書は5年間保管することを強くおすすめします。高額療養費申請後に保険者から問い合わせが来ることもあるため、コピーを取って原本を手元に残しておくと安心です。


医療ソーシャルワーカー(MSW)への相談を活用する

肺血栓塞栓症の入院中は、病院内の医療ソーシャルワーカー(MSW)に制度活用を相談するのが最も効率的です。MSWは以下をサポートしてくれます。

  • 限度額適用認定証の申請代行・案内
  • 高額療養費・医療費控除の計算支援
  • 傷病手当金(会社員が休業中に受け取れる給付)の申請案内
  • 生活困窮者向けの減額認定申請(国保・後期高齢)

入院が決まった時点で「医療費の相談がしたい」と病棟スタッフに伝えればMSWへつないでもらえます。制度の複合活用で、実質的な自己負担を最小化できます


よくある質問

Q1. 限度額適用認定証を入院後に受け取った場合、遡って適用できますか?

認定証の提示は原則として提示した月以降が対象です。提示前に支払った分については、事後に高額療養費の還付申請を行うことで払い戻しを受けられます。入院が長引く場合は、なるべく早く認定証を取得して残りの入院期間に提示しましょう。

Q2. 転院した場合、医療機関をまたいで合算できますか?

原則として同一医療機関・同一診療月の自己負担が限度額の対象です。ただし、同一月に複数の医療機関にかかった場合、それぞれの自己負担が21,000円以上であれば世帯合算の対象となります。転院先でも領収書を保管し、合算申請を行ってください。

Q3. 高額療養費の申請をし忘れていた場合、今からでも申請できますか?

診療月の翌月1日から2年以内であれば申請できます。2年を超えると時効となり請求権が消滅します。過去分をまとめて申請する場合は月ごとに申請書を分けて提出してください。

Q4. 抗凝固薬の処方が外来扱いの場合も高額療養費の対象ですか?

対象となります。外来診療・処方薬も高額療養費の計算に含まれます。ただし外来の場合は外来と入院で合計しても、同一月に同一保険医療機関での自己負担額が限度額を超えた場合に支給されます。複数の外来医療機関を受診している場合は世帯合算の検討も忘れずに。

Q5. 自営業者(国民健康保険加入)でも同じ制度が使えますか?

はい、国民健康保険でも高額療養費制度は同様に利用できます。ただし所得区分の判定が前年度の住民税課税標準額をもとに行われるため、確定申告を適切に行っておくことが重要です。申請窓口は住所地の市区町村役所(国保担当課)になります。

Q6. 高額療養費と傷病手当金は同時に受け取れますか?

受け取れます。高額療養費は医療費の自己負担を軽減する制度、傷病手当金は休業中の収入を補填する制度であり、両者は別制度のため同時受給が可能です。会社員・公務員の方は積極的に両方を申請してください。


まとめ

肺血栓塞栓症の治療費は入院・手術・継続抗凝固療法を通じて高額になりがちですが、高額療養費制度を正しく活用すれば自己負担を大幅に抑えられます。要点を整理します。

やること タイミング
限度額適用認定証を申請する 入院が決まった直後
領収書をすべて保管する 入院中〜退院後
高額療養費の還付申請をする 退院後(2年以内)
世帯合算・多数回該当を確認する 申請時
医療費控除の確定申告をする 翌年1〜3月
MSWへ相談する 困ったときすぐ

制度は複雑に見えますが、一つひとつの手順は難しくありません。入院中から医療ソーシャルワーカーや保険者の窓口に相談しながら、受け取れる還付を確実に受け取ってください。治療に専念するためにも、家計の不安を制度で解消することが大切です。


本記事の情報は2025年時点の制度内容をもとに作成しています。制度改正や個別の適用については、加入する保険者または市区町村の窓口へ必ずご確認ください。

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