共働き夫婦の医療費控除は所得低い方が得【計算例つき】

共働き夫婦の医療費控除は所得低い方が得【計算例つき】 医療費控除

「医療費控除は収入が多い方が申告した方が得」——実はこれ、間違いのケースが多いです。共働き夫婦が医療費控除を申告する際、どちらが申告するかで還付額が数万円単位で変わる可能性があります。この記事では、所得・税率・配偶者控除の関係を整理し、最適な申告者の選び方を計算例とともに解説します。確定申告の前に、ぜひ一度シミュレーションしてみてください。


医療費控除の基本|夫婦どちらが申告してもいいの?

申告者 課税所得 限界税率 医療費控除による還付額 総節税効果
夫が申告 600万円 23% 23万円 23万円
妻が申告 150万円 10% 10万円 26万円*
差額 13ポイント 13万円減 配偶者控除で+3万円

医療費控除とは、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分を所得から差し引いて税負担を軽減できる制度です。根拠法は所得税法第73条で、控除を受けるには確定申告(または還付申告)が必要です。

医療費控除の計算式と控除上限

医療費控除額は、以下の計算式で求めます。

医療費控除額 =(年間医療費合計 - 保険金等の補填額)- 10万円

所得が200万円未満の場合の特例

10万円の代わりに「合計所得金額×5%」を使います。
例:合計所得120万円 → 差し引く額は120万円×5%=6万円

控除額の上限は200万円です。医療費が210万円かかった場合でも、控除できるのは最大200万円までとなります。

計算例(基本)

項目 金額
年間医療費 40万円
保険金等補填額 5万円
差引後の医療費 35万円
10万円を差し引く 35万円 − 10万円
医療費控除額 25万円

この25万円を所得から差し引いた後の金額に対して、所得税率が適用されます。つまり、税率が高い人ほど控除による節税効果が大きいように見えますが、後述するとおり、実際には「税率が低い区間の所得を持つ配偶者」が申告した方が有利になる構造があります。

生計を一にする家族の医療費を合算できる

医療費控除の大きなポイントは、「生計を一にする」配偶者や親族の医療費をまとめて申告できることです(所得税法第73条第2項)。

「生計を一にする」とは、日常の生活費を共同で負担している関係を指します。共働き夫婦・子ども・同居の親などが対象です。単身赴任中でも仕送りがあれば「生計を一にする」と認められます。

重要なのは、申告者は原則として医療費を「実際に支払った人」であるという点です。夫名義の保険証で受診していても、妻が実際に支払った場合は妻が申告できます。共働き夫婦は、夫婦どちらの医療費であっても、支払いの事実さえ明確であれば、どちらの申告にまとめることも可能です。


なぜ「所得が低い方」の申告が得なのか

「収入が高い方が税率も高いのだから、多く控除できるのでは?」と考えるのは自然です。しかし実際には、所得税の計算構造上、所得が低い方に医療費控除を寄せた方が還付額が増えるケースが多いのです。その理由を順を追って説明します。

所得税の「累進課税」と限界税率の仕組み

日本の所得税は累進課税制度を採用しています。課税所得が増えるほど適用税率(限界税率)が段階的に上がる仕組みです。

課税所得 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超〜330万円以下 10% 97,500円
330万円超〜695万円以下 20% 427,500円
695万円超〜900万円以下 23% 636,000円
900万円超〜1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超〜4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

ここで重要なのは、医療費控除は課税所得の「低い部分(ゼロに近い部分)」から順に圧縮していく効果があるという点です。

たとえば課税所得が500万円の人(税率20%の区間)に25万円の医療費控除を適用しても、すでに20%の税率圏内ですから節税額は最大でも5万円です。一方、課税所得が150万円の人(税率5%の区間)に同じ控除を適用した場合は1.25万円の節税に留まりますが、後述する「ゼロ付近への圧縮効果」と配偶者控除の組み合わせで逆転するケースがあります。

「ゼロに近い課税所得」を持つ配偶者への控除が有効な理由

所得が低い配偶者がすでに基礎控除(48万円)や社会保険料控除を使うと、課税所得がほぼゼロに近い状態になっていることがあります。

この状態で医療費控除を受けると:

  • 住民税(均等割・所得割)が大幅に圧縮される
  • 翌年の国民健康保険料・介護保険料の算定基礎が下がる
  • 配偶者控除・配偶者特別控除の適用要件を満たしやすくなる

所得が高い方に医療費控除を適用しても、すでに税率が高い区間にいるため「課税所得の圧縮効率」が相対的に低くなるのです。

限界税率の違いによる還付率の比較

申告者 課税所得 適用税率 医療費控除25万円の節税効果
夫(高所得) 650万円 20% 約5万円
妻(低所得) 150万円 5% 約1.25万円
妻(低所得・住民税も含む) 150万円 5%+住民税10% 約3.75万円

注意: 上記は簡易計算です。実際は各種控除額・社会保険料控除などを差し引いた「課税所得」で計算されます。所得税の還付だけでなく、住民税の軽減・翌年の社会保険料への影響まで含めると、トータルでの節税効果は変わります。


計算例で比較|どちらが申告した方が得か

前提条件(モデルケース)

項目
給与収入 700万円 150万円
給与所得控除後の所得 約510万円 約95万円
社会保険料控除 約100万円 約22万円
基礎控除 48万円 48万円
課税所得(簡易) 約362万円 約25万円
適用所得税率 20% 5%
年間医療費合計 50万円(夫婦合算) ← 同左
保険金補填 5万円 ← 同左
医療費控除額 35万円 35万円

※医療費控除額=(50万円−5万円)−10万円=35万円

パターンA:夫が申告した場合

夫の課税所得:362万円
医療費控除:35万円
控除後の課税所得:327万円

所得税額の変化(税率20%区間):
  控除前:362万円×20%−427,500円 = 296,500円
  控除後:327万円×20%−427,500円 = 226,500円

所得税の還付額:296,500円−226,500円 = 約70,000円
住民税軽減:35万円×10% = 35,000円

合計節税効果:約105,000円

パターンB:妻が申告した場合

妻の課税所得:25万円
医療費控除:35万円
→ 控除額が課税所得を上回るため、課税所得は0円

所得税:0円(控除前もほぼ0円に近いため実質の還付は少ない)
住民税:課税所得0円 → 所得割が0円に
  ※住民税の均等割のみ(約5,000円前後)に圧縮

ただし…
妻の合計所得金額が下がることで「夫の配偶者控除(38万円)」が適用可能に。
夫の課税所得から追加で38万円を控除:
  38万円×20% = 76,000円(所得税) + 38万円×10%=38,000円(住民税)

合計節税効果:約114,000円〜(配偶者控除分を含む)

結論: このモデルケースでは妻が申告した方が約9,000〜10,000円以上有利です。妻の所得がさらに低い(配偶者控除の適用条件を満たす)ケースでは差がさらに広がります。


配偶者控除との併用で節税効果が倍増する仕組み

配偶者控除・配偶者特別控除の適用条件

制度 適用条件(妻側の合計所得) 夫の控除額(所得900万円以下)
配偶者控除 48万円以下 38万円
配偶者特別控除 48万円超〜133万円以下 1〜38万円(段階的)

ここで注目すべきは、医療費控除を妻名義で申告することで妻の「合計所得金額」が下がる可能性がある点です。

合計所得金額と医療費控除の関係

医療費控除は「合計所得金額」を直接減らす「所得控除」です。

  • 妻の合計所得が55万円 → 医療費控除(10万円適用)→ 合計所得45万円
  • 48万円以下になれば配偶者控除が適用可能に!

これにより:
1. 妻側:所得税・住民税の軽減
2. 夫側:配偶者控除38万円が適用 → 夫の税負担も軽減

一つの医療費控除が、夫婦双方の節税につながる「二重効果」を生みます。

配偶者特別控除との関係も要チェック

すでに配偶者特別控除を使っている夫婦は、妻の所得が下がることで配偶者特別控除額が増加するケースもあります。たとえば妻の合計所得が95万円から85万円に下がると、控除額が段階的に増加します(国税庁の控除額早見表を参照)。


申告前に確認|医療費控除の対象・対象外一覧

対象になる医療費

カテゴリ 具体例
診療・治療 医師・歯科医師の診察料、治療費、処置費
入院 入院費、手術費、病院食(療養のための食事代)
処方薬、市販薬(治療目的・医師の指示あり)
歯科 虫歯治療、インプラント、入れ歯(治療目的)
交通費 電車・バス・タクシー(緊急時・公共交通機関が使えない場合)
出産 出産費用のうち一時金を超えた自己負担分
不妊治療 体外受精・顕微授精などの治療費
その他 透析費用、義眼・義肢・補聴器(医師指示)、マッサージ(医師指示)

対象外になる医療費

カテゴリ 具体例
予防・健康管理 健康診断・人間ドック(疾病未発見)、予防接種
美容目的 美容整形、ホワイトニング(審美目的)、脱毛
サプリ・健康食品 ビタミン剤、プロテイン、栄養補助食品
日用品・雑費 絆創膏・マスク(大量購入)、医師指示のないコンタクトレンズ
付添費 親族が付き添った際の交通費・日当(ただし患者本人の交通費はOK)

申請手順|確定申告の具体的な流れ

必要書類を準備する

確定申告で医療費控除を申請するには、以下の書類が必要です。

書類 入手先 備考
確定申告書(第一表・第二表) 税務署・国税庁HP e-Taxなら自動生成
源泉徴収票 勤務先 申告者本人のもの
医療費控除の明細書 国税庁HPからダウンロード 領収書は原則提出不要(5年保存)
医療費通知書(任意) 健康保険組合 明細書の代わりに使用可
マイナンバー確認書類 本人 マイナンバーカードまたは通知カード+身分証

2017年分以降、医療費の領収書を確定申告書に添付する必要はなくなりました。 ただし、「医療費控除の明細書」の作成は必須です。領収書は5年間自宅で保管してください(税務署から求められた場合に提出義務あり)。

医療費控除の明細書を作成する

  1. 国税庁ホームページから「医療費控除の明細書」をダウンロード
  2. 医療機関名・支払年月・医療費の区分・金額を記入
  3. 保険金等の補填額を差し引く
  4. 合計額を確定申告書の所得控除欄に転記

健康保険組合の「医療費通知書」がある場合は、明細書の代わりに使えます。ただし通知書に記載されていない医療費(自費診療・市販薬等)は別途明細書で補足します。

e-Taxで申告する(推奨)

e-Taxを使うと、医療費控除の計算・申告書作成・送信がすべてオンラインで完結します。

  1. 国税庁「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
  2. マイナンバーカードとスマートフォン(またはICカードリーダー)を用意
  3. 画面の指示に従って所得・控除を入力(医療費通知書データをXML形式でアップロード可)
  4. 計算結果を確認し、送信

還付申告の場合は1月1日から申告可能です(通常の確定申告は2月16日〜3月15日)。還付申告は申告義務のない人でも申請でき、過去5年分まで遡って申告できます

申告後の還付金受取

  • 申告後、通常1〜2ヶ月程度で指定口座に還付金が振り込まれます
  • e-Taxで申告した場合は約3週間程度と早め
  • 還付金の入金時期は「国税還付金振込通知書」で確認可能

最適な申告者を選ぶ際のチェックリスト

実際にどちらが申告すべきか迷った場合は、以下のチェックリストを活用してください。

ステップ1:二人の課税所得を把握する

□ 源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」を確認
□ 社会保険料控除・基礎控除(48万円)を差し引いて「課税所得」を概算
□ 課税所得の税率区分を確認(上記の税率表を参照)

ステップ2:配偶者控除の適用可否を確認する

□ 所得が低い配偶者の「合計所得金額」を計算
□ 医療費控除を適用した後の合計所得が48万円以下になるか確認
□ なる場合 → 配偶者控除38万円が追加で適用可能(夫側の節税効果UP)
□ 48万円超〜133万円以下 → 配偶者特別控除の控除額が増える可能性

ステップ3:双方の節税額を試算する

□ 申告者A(高所得):医療費控除額×所得税率+住民税10% = 節税A
□ 申告者B(低所得):(医療費控除額×所得税率+住民税10%)+
                     配偶者控除増加分×高所得者の税率 = 節税B
□ 節税B > 節税A であれば低所得者が申告した方が有利

ステップ4:翌年の社会保険料への影響も考慮する

国民健康保険や介護保険の保険料は前年の所得をもとに計算されます。医療費控除で所得が下がると、翌年の保険料が下がる効果もあります。サラリーマン世帯(社会保険加入)は影響が少ないですが、個人事業主・フリーランスの配偶者がいる世帯では重要な検討ポイントです。


よくある間違いと注意点

「収入が多い方が絶対に得」は誤り

冒頭でも触れましたが、この思い込みが最大の落とし穴です。所得税の限界税率が同じ区間にいる場合(例:夫も妻も税率10%)は、単純に合算額が多い方が申告した方が有利ですが、税率区分が異なる場合は低所得者側の申告が有利になることが多いです。

医療費控除で「配偶者控除が外れる」ことはない

医療費控除は「申告した人の所得を減らす」ものです。妻が医療費控除を申告することで妻の所得が下がり、配偶者控除の要件(合計所得48万円以下)を新たに満たすことはあっても、既に適用中の配偶者控除が医療費控除によって外れることはありません。

医療費の「実際の支払者」を明確にしておく

税務調査で問題になりやすいのが「誰が実際に支払ったか」です。夫のクレジットカードで妻が支払った場合、支払い名義は夫になります。このような場合は夫が申告するか、実態として妻の家計から支払っていることを説明できるよう記録を残しておきましょう。家族共有の口座からの支払いであれば、どちらが申告しても問題ない場合がほとんどです。

セルフメディケーション税制との選択制に注意

2017年から導入されたセルフメディケーション税制(スイッチOTC薬の購入費が1.2万円超の場合に適用)は、通常の医療費控除とどちらか一方しか選べません。 どちらが有利かを計算したうえで選択してください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 医療費控除は夫婦で分けて申告することはできますか?

できません。医療費控除は一人の申告者がまとめて申告する制度です。夫と妻で別々に50%ずつ申告するといったことはできません。夫婦どちらか一方が全額を申告する形になります。

Q2. 夫が会社員で年末調整済みの場合、妻が申告できますか?

はい、できます。妻(またはパート・アルバイトを含む)が確定申告(還付申告)を行う形です。妻が確定申告書を提出して医療費控除を申請します。夫の年末調整とは別に扱われるため、修正は不要です。

Q3. 医療費通知書に載っていない医療費はどうすればいいですか?

健康保険組合の「医療費通知書」は健康保険適用分のみが記載されます。自費診療・市販薬・交通費などは明細書に別途手書きで追記してください。医療費通知書と手書き明細書を併用することも可能です。

Q4. 過去の医療費控除を申告し忘れていた場合、遡れますか?

はい、申告義務のない還付申告は5年間遡って申告可能です(例:2025年申告時点では2020年分まで遡れます)。税務署の窓口またはe-Taxで過去年分の申告書を提出してください。

Q5. 共働きで夫婦ともに確定申告している場合はどうすればいいですか?

それぞれが確定申告を提出している場合でも、医療費控除はどちらか一方の申告書にまとめて計上します。申告書の提出前に、どちらに計上するかを二人で話し合い、節税効果が高い方を選んでください。

Q6. 妻がパートで年収103万円以下の場合、申告する意味はありますか?

年収103万円以下で所得税を納めていない場合、所得税の還付は受けられませんが、住民税が発生している場合は住民税の軽減効果があります。 また、医療費控除を申告することで妻の合計所得が下がり、夫の配偶者控除がより確実に適用される場合もあります。一方、還付金がほぼゼロなら夫が申告した方がトータルで有利なケースもあるため、両パターンを試算することをお勧めします。


まとめ

共働き夫婦の医療費控除について、重要なポイントを整理します。

ポイント 内容
申告者の選択 どちらが申告するかで還付額が大きく変わる
基本の判断軸 課税所得・適用税率・配偶者控除の有無を確認
所得低い方が有利なケース 配偶者控除が適用される・税率区分が異なる
所得高い方が有利なケース 税率区分が同じ・課税所得が十分ある場合
忘れがちな節税 住民税軽減・翌年の社会保険料への波及効果
申告のタイミング 還付申告は1月1日から・過去5年分遡及可能

医療費控除は「誰が申告するか」という判断一つで、年間数万円単位の差が生まれます。確定申告のシーズンが来る前に、源泉徴収票を手元に用意してシミュレーションしてみてください。e-Taxの「確定申告書等作成コーナー」では試算機能も使えるため、実際の数字を入力して比較することをお勧めします。

専門家への相談を検討する場合: 医療費が高額・不妊治療・介護費用など複合的なケースは、税理士や最寄りの税務署の無料相談窓口を活用してください。確定申告期間中は全国の税務署で無料の申告相談が行われています。

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