医療費控除は共働きでどちらが申告すると得か【計算例付き】

医療費控除は共働きでどちらが申告すると得か【計算例付き】 医療費控除

「共働きなら夫婦どちらが医療費控除を申告すればいい?」この疑問、実は選択次第で還付金が10万円以上変わるケースがあります。制度の仕組みと最適な選び方を、具体的な計算例とともに解説します。


そもそも医療費控除は夫婦どちらでも申告できるのか?

結論から言うと、夫婦のどちらが申告しても構いません。ただし、「だったら誰でも同じ」というわけではなく、申告する人の所得税率によって戻ってくる金額(還付金)が大きく変わります。まずは制度の大前提となるルールを確認しましょう。

「生計一の親族」とは何か?夫婦・子ども・親の範囲

医療費控除の申告では、「生計を一にする親族」の医療費をまとめて計上できるというルールがあります(所得税法第73条)。「生計を一にする」とは、ざっくりいえば「同じ財布で生活している」状態です。

具体的には以下のケースが該当します。

対象者 条件
配偶者(夫・妻) 共働きでも生計一に該当
子ども 同居している場合は原則該当
別居の子ども 仕送りをして養っている場合は該当
同居の親 生活費を共にしていれば該当
別居の親 生活費を定期的に送金していれば該当

共働き夫婦でも「別々に給料をもらっているから生計が別」とはなりません。共働きであっても夫婦は原則として生計一とみなされます。つまり、夫と妻の医療費、さらに子どもや同居の親の医療費もすべてまとめて、夫婦のどちらか一方が申告できます。

同じ医療費を夫婦それぞれが申告するのはNG

一方で、絶対に守らなければならないルールがあります。それは同一の医療費を夫婦の両方で申告することはできないということです。

たとえば、妻の入院費30万円を「夫の確定申告にも、妻の確定申告にも両方計上する」のは二重申告(脱税)になります。医療費はどちらか一方が申告者となり、その人の申告書に一括して記載するのが正しいやり方です。

共働き夫婦の正しい戦略は「医療費全額を、所得税率が高い方がまとめて申告する」ことです。


所得が高い方と低い方、還付金がどれだけ違うか

医療費控除は「所得控除」の一種です。所得控除とは、課税所得(税金の計算のベースになる金額)を減らす仕組みで、課税所得が大きい人ほど高い税率が適用されているため、同じ控除額でも還付金が多くなります

所得税の税率表(速算表)

課税所得 税率
195万円以下 5%
195万円超〜330万円以下 10%
330万円超〜695万円以下 20%
695万円超〜900万円以下 23%
900万円超〜1,800万円以下 33%
1,800万円超〜4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

この税率の差が、申告者の選択による還付金の差に直結します。

具体的な計算例:夫婦の所得差がある場合

前提条件
– 世帯全体の医療費合計:80万円
– 保険金・給付金による補填:20万円
– 医療費控除の対象額:80万円 − 20万円 − 10万円 = 50万円

夫が申告した場合(課税所得700万円・税率23%)

50万円 × 23% = 115,000円(所得税の還付)
50万円 ×  6% =  30,000円(住民税の軽減)
─────────────────────────────
合計節税効果:145,000円

妻が申告した場合(課税所得350万円・税率20%)

50万円 × 20% = 100,000円(所得税の還付)
50万円 ×  6% =  30,000円(住民税の軽減)
─────────────────────────────
合計節税効果:130,000円

差額:15,000円(夫が申告した方が得)

税率が1段階違うだけでも数万円単位の差が生まれます。税率差が大きいほどこの差は広がります。

税率差が大きいケース:差額が10万円超になる例

前提条件
– 医療費控除の対象額:50万円
– 夫の課税所得:1,000万円(税率33%)
– 妻の課税所得:200万円(税率10%)

夫が申告:50万円 × 33% = 165,000円
妻が申告:50万円 × 10% =  50,000円

【還付額の差:115,000円】
※住民税軽減(6%)はどちらも同額のため省略

この例のように、夫婦の所得差が大きいほど、申告者の選択による差は数十万円規模になることがあります

住民税にも控除効果がある

還付金のインパクトは所得税だけではありません。医療費控除を申告すると、翌年の住民税も軽減されます。住民税の税率は所得にかかわらず一律10%(うち所得割は課税所得の10%)ですが、医療費控除による住民税の軽減は所得控除として一律6%相当が減額されます。

住民税の軽減効果は申告者が誰であっても概ね同額になりますが、所得税の還付は申告者の税率に依存するため、やはり所得税率が高い方が申告するのが原則として有利です。


例外的に所得が低い方が有利になるケース

「常に所得が高い方が得」というわけでもありません。特定の条件下では、所得が低い方が申告した方が有利になる場合があります。

控除の足切りが「5%」になるケース

医療費控除の計算式は次のとおりです。

医療費控除額 = 医療費合計 − 保険金等の補填 − 「10万円」または「総所得金額の5%」のいずれか少ない方

総所得金額が200万円未満の場合、10万円ではなく「総所得金額×5%」が足切り額になります。

例:妻の総所得金額が150万円の場合

足切り額 = 150万円 × 5% = 7.5万円(10万円より少ない)

医療費が20万円の場合:
妻が申告 → 20万円 − 7.5万円 = 控除額 12.5万円
夫が申告(所得400万円)→ 20万円 − 10万円 = 控除額 10万円

この例では妻の方が控除額そのものが大きくなるため、妻の税率が低くても最終的な節税額が逆転する可能性があります。所得が200万円未満のパートナーが申告者になる選択肢も、必ず試算の対象にしてください。

所得税額そのものが少ない場合は注意

還付金は「支払った所得税額」が上限です。所得税を年間5万円しか払っていない人が、計算上10万円の還付になったとしても、実際に戻ってくるのは5万円までです。所得が高い方が申告すれば、この上限に引っかかるリスクも下がります。


医療費控除の計算式と控除額の求め方

実際に申告する前に、控除額を正確に計算しましょう。

控除額の計算式

【医療費控除額の計算式】

医療費控除額 = 年間医療費合計額
              − 保険金・給付金による補填額
              − 10万円(※総所得金額が200万円未満の場合は総所得金額の5%)

※上限:200万円

計算のステップ

ステップ1:年間の医療費合計を出す

夫・妻・子ども・対象となる親族全員の医療費を一覧にまとめます。対象になる費用と対象外の費用をしっかり区別しましょう。

対象になる費用 対象にならない費用
病院・歯科の診療費・治療費 健康診断費(異常なしの場合)
処方薬・薬局での医薬品(治療目的) 予防接種(インフルエンザ等)
入院費(食事代含む) 美容目的の歯列矯正・美容整形
通院の公共交通機関費 自家用車のガソリン代・駐車場代
介護サービス費(一部) 一般的なサプリメント・ビタミン剤
出産費(異常分娩・帝王切開) 正常分娩の出産費用

ステップ2:保険金・給付金を差し引く

医療保険の入院給付金、健康保険の高額療養費・附加給付、出産育児一時金などは医療費から差し引く必要があります。ただし、差し引くのはその医療費に対応する補填分だけです。ある医療費に対応する補填額がその医療費を超えても、他の医療費から引く必要はありません。

ステップ3:足切り額(10万円または5%)を差し引く

申告者の総所得金額が200万円以上なら10万円、200万円未満なら「総所得金額×5%」を差し引きます。

ステップ4:申告者の税率を掛けて還付額を概算する

控除額 × 所得税率 = 所得税の概算還付額


共働き夫婦の申告手順:具体的なやり方

どちらが申告するか決まったら、実際の手続きを進めます。

必要書類の準備

申告に必要な書類は以下のとおりです。

書類名 入手先・備考
医療費控除の明細書 国税庁ウェブサイトからダウンロード
源泉徴収票 勤務先から発行(申告者本人のもの)
医療費の領収書 全員分(5年間保存義務)
健康保険組合の医療費通知 組合から送付(任意利用)
マイナンバーカードまたは通知カード+身分証 本人確認書類

ポイント:2017年以降、領収書の添付は不要になりましたが、5年間の保存義務があります。税務署から求められた場合に提出できるよう、必ず保管しておきましょう。

医療費控除の明細書の書き方

医療費控除の明細書には次の項目を記入します。

  1. 医療を受けた人の氏名(夫・妻・子ども・親など)
  2. 病院・薬局の名称
  3. 医療費の区分(診療・医薬品・その他)
  4. 支払った医療費の金額
  5. 保険金などで補填される金額

家族全員分の医療費を申告者一人の明細書にまとめて記載します。

申告方法は3種類

申告方法 特徴
e-Tax(オンライン) 国税庁の確定申告書等作成コーナーから申告。還付が最速。マイナンバーカードまたはID・パスワード方式が必要
税務署への持参 作成した申告書を直接提出。確認事項があればその場で対応可
郵送 申告書を郵送。消印が期限内であればOK

共働きで時間がない方にはe-Taxが最もおすすめです。画面の案内に沿って入力するだけで申告書が完成し、還付も早い(通常2〜3週間)。

申告期間と期限

  • 通常の確定申告期間:翌年2月16日〜3月15日
  • 還付申告のみの場合:翌年1月1日から5年間いつでも申告可能

医療費控除のように「払いすぎた税金を取り戻す」還付申告は、確定申告期間外(1月や4月以降)でも申告できます。仕事が忙しくて2月〜3月に間に合わなくても、5年以内であれば申告できるので焦らず準備しましょう。


共働き夫婦がやりがちな失敗と注意点

失敗①:お互いが別々に申告してしまう

夫も妻も「自分の医療費は自分で申告しよう」と思い、それぞれが申告してしまうケースがあります。これは違法ではありませんが、節税効果が最大化されない可能性があります。世帯の医療費をすべてまとめて、所得税率が高い方が一括申告するのが正解です。

失敗②:通院交通費を忘れる

意外と見落とされがちなのが通院交通費です。電車・バスなどの公共交通機関の料金は医療費として計上できます。タクシーは原則対象外ですが、深夜・緊急時など公共交通機関が利用できない合理的な理由がある場合は対象になります。自家用車のガソリン代・駐車場代は対象外です。

失敗③:保険金の差し引きを間違える

医療保険の給付金や高額療養費の払い戻しを医療費から引き忘れる、または間違えて全体から一括で引いてしまうケースがあります。正しくはそれぞれの医療費に対応する補填額だけを、その医療費から差し引く方法です。

失敗④:セルフメディケーション税制と医療費控除を両方申告してしまう

セルフメディケーション税制(市販薬の購入費を対象とした控除)は、医療費控除との併用ができません。どちらか有利な方を選択します。一般的には医療費が多い年は医療費控除、少ない年はセルフメディケーション税制が有利になるケースが多いです。

失敗⑤:給与所得者(会社員)の年末調整で対応しようとする

医療費控除は年末調整では申告できません。給与所得者であっても、医療費控除を受けるためには必ず確定申告が必要です。「年末調整で出せるはずだ」と思い込んで申告を見送ってしまうのは大きな損失になります。


実践シミュレーション:夫婦の所得別・最適申告者チェック表

以下の早見表を参考に、どちらが申告すべきか判断してください。

夫の課税所得(税率) 妻の課税所得(税率) 最適な申告者 理由
700万円(23%) 300万円(10%) 税率差13%→還付額に大差
400万円(20%) 350万円(20%) どちらでも同じ 同税率なら差なし
500万円(20%) 150万円(5%) 要計算 足切り額が5%になる妻が控除額大きい可能性あり
1,200万円(33%) 200万円(10%) 還付差額が最大化
250万円(10%) 180万円(5%) 税率は同等でも妻は還付上限が低い可能性

ポイント:どちらの税率も同じ場合は、所得が高い方(還付上限が高い方)を申告者にするのが安全です。また、一方の課税所得が200万円未満のケースは必ず5%ルールを計算したうえで比較してください。


よくある質問

Q1. 妻がパートで年収103万円以下の場合、夫が全額申告できますか?

はい、できます。妻がパートで所得税を納めていない(または少額しか納めていない)場合は、夫がすべての医療費をまとめて申告するのが合理的です。生計を一にしていれば、妻の医療費も夫の申告に含めることができます。

Q2. 妻の分の医療費領収書を夫が申告書に使うのは問題ありませんか?

まったく問題ありません。生計を一にする家族の医療費は、申告者がまとめて計上するのが正規の手続きです。領収書の名義が妻や子どもであっても、申告者(夫)の医療費控除の明細書に記載できます。

Q3. 共働きで夫婦それぞれが医療費を申告することはできますか?

「夫は夫の医療費だけ、妻は妻の医療費だけ」というように、別々に申告すること自体は違法ではありません。ただし、同一の医療費を両方が申告することは二重申告(脱税)になります。また、別々に申告すると足切り額(10万円)がそれぞれに適用されるため、世帯全体の節税効果が低くなる可能性が高いです。基本的には一方にまとめる方が有利です。

Q4. 確定申告が初めてで e-Tax の使い方がわからない場合はどうすればいいですか?

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は、画面の案内に従って数字を入力するだけで申告書が自動作成されます。医療費控除の明細書もオンライン上で作成できます。操作に不安がある場合は、税務署の申告会場(2月〜3月に開設)に相談窓口があります。また、確定申告期間外でも税務署の相談窓口は年間を通して利用できます。

Q5. 医療費控除の申告を忘れた過去の年分はどうなりますか?

医療費控除の還付申告は、申告できる年の翌年1月1日から5年間遡って申告できます。2020年分であれば2025年12月31日まで申告が可能です。過去の領収書が残っていれば、今からでも申告できるので確認してみましょう。

Q6. 医療費が10万円に届かない場合は申告しても意味がありませんか?

申告者の総所得金額が200万円未満であれば、足切り額が「総所得金額×5%」になるため、10万円に届かなくても控除が受けられる場合があります。たとえば総所得100万円なら足切り5万円なので、医療費が7万円でも2万円分の控除が可能です。


まとめ:共働き夫婦の医療費控除、最適な選択の3原則

最後に、この記事の要点を整理します。

原則①:基本は所得税率が高い方が申告する
同じ控除額でも、税率が高い方が申告すると還付金が多くなります。源泉徴収票で双方の課税所得を確認し、税率が高い方を申告者にしましょう。

原則②:総所得200万円未満のパートナーがいる場合は必ず比較計算する
足切り額が「5%」になることで控除額が大きくなり、所得が低い方が有利になる逆転現象が起きることがあります。試算したうえで判断してください。

原則③:医療費は家族全員分を一方にまとめて申告する
子どもや同居の親の医療費も含め、生計一の親族の医療費を一人の申告書に集約することで、足切り額の10万円(または5%)を一度だけ適用することができ、控除額が最大化されます。

確定申告の手続き自体は、e-Taxを使えば比較的簡単に完了できます。源泉徴収票と領収書を手元に準備して、ぜひ今年の申告に活用してください。

税制は毎年改正される可能性があります。申告の際は国税庁の最新情報または税理士にご確認ください。

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