高額療養費と医療費控除を両方申告する計算方法【2026年版】

高額療養費と医療費控除を両方申告する計算方法【2026年版】 高額療養費制度

高額療養費と医療費控除は両方申告できます。ただし、正しく計算しないと申告漏れや誤申告につながる落とし穴があります。この記事では、2つの制度の違い・正しい計算式・申請の順番・必要書類・よくあるミスまでを体系的に解説します。確定申告で損をしないために、ぜひ最後までお読みください。


高額療養費と医療費控除は「両方」申告できる?結論を先に確認

項目 高額療養費 医療費控除
制度の法律 健康保険法 所得税法
支給主体 加入している保険者(健保組合など) 税務署(確定申告で返金)
申請対象 自己負担限度額を超えた分 10万円超の医療費から控除
計算に含める医療費 高額療養費受給前の医療費 高額療養費受給後の医療費
両方申告時の注意点 実際の支払額ベース 高額療養費で減った負担額を差引く

結論:両方申告できます。

ただし「申告できる」ことと「そのまま両方の金額を使える」ことは別問題です。計算式に正しいルールがあり、これを知らないと過大申告になるリスクがあります。まず2つの制度の根本的な違いから確認しましょう。

2つの制度の根本的な違い(保険法 vs 所得税法)

高額療養費と医療費控除は、法律の根拠がまったく異なる別々の制度です。

比較項目 高額療養費制度 医療費控除
法的根拠 健康保険法 第115条 所得税法 第73条
制度の種類 公的医療保険の給付制度 所得税の税控除制度
管轄 厚生労働省・各保険者 国税庁
申請先 加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険など) 税務署(確定申告)
計算の単位 月単位(1日〜末日) 暦年(1月1日〜12月31日)
対象医療費 保険診療のみ 保険診療+自由診療(一部)
メリット 超過した医療費が現金で戻る 支払った所得税が還付される

このように2つの制度は「保険の話」と「税金の話」で完全に別物です。だからこそ、両方を申告すること自体は何ら問題ありません。

「両方申告できるが、計算式に注意が必要」な理由

医療費控除を計算するとき、高額療養費として受け取った給付金は「補填金」として差し引く必要があります(所得税法施行令第207条)。

これは「実際に自己負担した金額だけが控除の対象になる」という原則に基づいています。高額療養費で戻ってきたお金は、結果的に自分が負担していない部分です。これを差し引かずに申告すると、実態よりも多い医療費を控除したことになり、過大申告・申告漏れとして税務調査の対象になるリスクがあります。

【最重要ルール】
医療費控除の計算では、高額療養費の給付額を必ず差し引くこと

【計算式】高額療養費を受け取った年の医療費控除の正しい計算方法

基本の計算式

医療費控除額の正しい計算式は以下のとおりです。

【医療費控除額の計算式】

(年間に支払った医療費の合計)
  -(高額療養費などの給付・補填金)
  -(10万円 ※総所得200万円未満の場合は総所得の5%)
 = 医療費控除額(上限200万円)

【税額還付の計算式】

医療費控除額 × 所得税率 = 還付される所得税額

「補填金」に含まれる主なものは以下のとおりです。高額療養費以外にも差し引く必要があるものがあるので注意してください。

差し引く必要があるもの 差し引かなくてよいもの
高額療養費の給付額 生命保険の入院給付金(対応する医療費を超えない範囲)
付加給付(健保組合の独自給付) 傷病手当金
家族療養費 障害年金・遺族年金
医療保険(実費補填型)の給付金 見舞金(社会通念上相当額)

注意:生命保険の入院給付金は「その入院で発生した医療費を限度として」差し引きます。給付金が医療費を超える場合、超過分は他の医療費から差し引く必要はありません。

具体的な計算例(ケース別)

【ケース1】入院費が高く、高額療養費を受け取った会社員(年収500万円)

  • 年間の医療費合計:60万円
  • 高額療養費の給付額:18万円
  • 生命保険の入院給付金:5万円(その入院の医療費は15万円)
  • 適用される所得税率:20%(課税所得330万円超695万円以下)
Step1:補填金の合計を計算
 高額療養費 18万円 + 入院給付金 5万円 = 23万円

Step2:医療費控除額を計算
 60万円 − 23万円 − 10万円 = 27万円

Step3:還付される所得税額
 27万円 × 20% = 5万4,000円

Step4:住民税の軽減額(翌年)
 27万円 × 10% = 2万7,000円

合計節税効果:5万4,000円 + 2万7,000円 = 8万1,000円

【ケース2】外来通院が多い自営業者(総所得150万円)

  • 年間の医療費合計:25万円
  • 高額療養費の給付額:3万円
  • 所得税率:5%(課税所得195万円以下)
Step1:補填金の合計
 高額療養費 3万円

Step2:控除の足切り額(総所得200万円未満のため総所得の5%)
 150万円 × 5% = 7万5,000円

Step3:医療費控除額
 25万円 − 3万円 − 7万5,000円 = 14万5,000円

Step4:還付される所得税額
 14万5,000円 × 5% = 7,250円

Step5:住民税の軽減額
 14万5,000円 × 10% = 1万4,500円

高額療養費の自己負担限度額(所得区分別)

高額療養費でいくら給付されるかを把握するために、自己負担限度額の一覧を確認しておきましょう(70歳未満・2024年度現在)。

所得区分 月の自己負担限度額 多数回該当(年4回目以降)
区分ア(年収約1,160万円〜) 252,600円+(医療費−842,000円)×1% 140,100円
区分イ(年収約770〜1,160万円) 167,400円+(医療費−558,000円)×1% 93,000円
区分ウ(年収約370〜770万円) 80,100円+(医療費−267,000円)×1% 44,400円
区分エ(年収約156〜370万円) 57,600円 44,400円
区分オ(住民税非課税) 35,400円 24,600円

ポイント:実際に支払った医療費から限度額を引いた差額が高額療養費として給付されます。この給付額を医療費控除の計算で必ず差し引きます。


申請の順番と手続きの流れ

どちらを先に申請すべきか

高額療養費を先に申請し、給付額が確定してから医療費控除を申告するのが正解です。

医療費控除の計算には「高額療養費の給付額」が必要です。給付額が確定していないと、正しい控除額を計算できません。

【正しい申請の順番】

STEP 1:医療費を支払う(月単位で発生)
  ↓
STEP 2:高額療養費を申請する(受診月の翌月〜2年以内)
  ↓
STEP 3:高額療養費の給付額を確認・記録する
  ↓
STEP 4:1月〜12月分の医療費・補填金をまとめる
  ↓
STEP 5:確定申告で医療費控除を申告する(翌年2月16日〜3月15日)
     ※還付申告は1月1日から5年間いつでも可能

高額療養費の申請方法と必要書類

協会けんぽ・健康保険組合に加入している方(会社員など)

必要書類:
– 高額療養費支給申請書(保険者のウェブサイトからダウンロード)
– 医療機関の領収書(原本またはコピー)
– 健康保険証(コピー)
– 振込先口座の情報(通帳のコピーなど)

申請期限: 診療月の翌月1日から2年以内

申請先: 全国健康保険協会(協会けんぽ)の各都道府県支部、または所属の健康保険組合

自動給付の確認:健康保険組合によっては申請不要で自動給付される場合があります。加入している健保に確認しましょう。

国民健康保険に加入している方(自営業者・フリーランスなど)

必要書類:
– 高額療養費支給申請書(市区町村の窓口またはウェブサイト)
– 医療機関の領収書
– 国民健康保険証
– 振込先口座情報(通帳のコピー)
– マイナンバー確認書類(本人確認書類)

申請先: 居住する市区町村の国民健康保険担当窓口

限度額適用認定証を使った事前対応

入院が予定されている場合は、事前に限度額適用認定証を取得しておくと、医療機関の窓口での支払いが最初から自己負担限度額までに抑えられます(後から高額療養費を申請する手間が省けます)。ただし限度額適用認定証を使った場合も、給付を受けた事実に変わりはないため、医療費控除の計算では自己負担した限度額のみが控除対象になります。

医療費控除の申告方法と必要書類

確定申告書の提出方法

方法 特徴
e-Tax(電子申告) スマートフォン・PCから24時間申告可能。最も推奨
税務署窓口への持参 申告期間中は混雑するため早めに
郵送 申告書類一式を税務署に郵送

医療費控除に必要な書類

  • 確定申告書(第一表・第二表)
  • 医療費控除の明細書(領収書の提出は原則不要だが5年間保管が必要)
  • 源泉徴収票(会社員の場合)
  • 高額療養費の支給決定通知書(給付額の確認用・5年間保管推奨)
  • 医療費の領収書(病院・薬局から発行されたもの)
  • 健康保険組合などからの付加給付の通知書(受け取っている場合)

確定申告書への記入のポイント

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」または「医療費集計フォーム」を活用すると、医療機関ごとに支払った金額・補填金を入力するだけで自動的に計算されます。手書きの場合は「医療費控除の明細書」に以下を記載します。

【医療費控除の明細書 記載例】

① 医療を受けた方の氏名:山田太郎
② 病院・薬局等の名称:○○病院
③ 医療費の区分:診療・治療
④ 支払った医療費の額:480,000円
⑤ うち生命保険や社会保険などで補填される金額:180,000円(高額療養費)

→ 実質の控除対象医療費:④−⑤ = 300,000円

計算ミスを防ぐ!よくある誤申告と対処法

よくある誤申告パターン

誤申告①:高額療養費を差し引かずに申告してしまう

最も多いミスです。「高額療養費は保険の制度だから確定申告には関係ない」と思い込んで差し引かないケース。補填金の記入欄(医療費控除の明細書の⑤欄)に必ず記載してください。

誤申告②:給付額が「未確定」のまま申告してしまう

申告時点で高額療養費の申請中・給付額不明の場合は、後日正確な金額で修正申告が必要です。できるだけ給付額確定後に申告しましょう。

誤申告③:生命保険の入院給付金を全額差し引いてしまう

入院給付金は「その入院で発生した医療費を限度」として差し引きます。給付金が医療費を超えた場合、超過分を他の医療費から引く必要はありません(所得税基本通達73-9)。

誤申告④:差額ベッド料・先進医療費も高額療養費の対象と誤解する

差額ベッド料・先進医療の技術料・自由診療費は高額療養費の対象外です。これらは医療費控除の対象になる可能性がありますが(先進医療の技術料は対象)、高額療養費の補填金とは関係ありません。

誤申告⑤:高額療養費と医療費控除の計算期間を混同してしまう

高額療養費は月単位、医療費控除は暦年(1月〜12月)単位です。たとえば12月末に入院して翌年1月に退院した場合、医療費控除は「支払った年」に分けて計上しますが、高額療養費は月をまたいで計算できません。

申告後に気づいた場合の修正方法

状況 対応方法
過少申告(控除額が少なかった) 更正の請求(申告期限から5年以内)
過大申告(控除額が多すぎた) 修正申告(速やかに行うこと)
高額療養費の給付が翌年に判明した 判明した翌年に更正の請求を提出

セルフメディケーション税制との選択に注意

医療費控除には通常の医療費控除とセルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費の控除)の2種類があります。

【重要】どちらか一方しか選択できない(併用不可)

通常の医療費控除:年間医療費が10万円(または総所得の5%)を超える場合に有利
セルフメディケーション税制:市販薬購入が年間1万2,000円超で、医療費が少ない場合に有利

高額療養費を受け取っている方は年間の医療費負担が大きいケースが多いため、通常の医療費控除のほうが有利なことがほとんどです。両者を比較計算して有利な方を選択してください。


確認しておきたい申請期限まとめ

手続き 申請期限・期間
高額療養費の申請 診療月の翌月1日から2年以内
限度額適用認定証の申請 入院・高額診療の前月までに申請推奨
確定申告(通常) 翌年2月16日〜3月15日
還付申告(申告書未提出の方) 翌年1月1日から5年間いつでも可能
更正の請求(控除が少なかった場合) 法定申告期限から5年以内
修正申告(控除が多すぎた場合) 気づいた時点で速やかに

ポイント:会社員で年末調整のみで確定申告を行っていない方も、医療費控除は還付申告として別途税務署に申告できます。過去5年分をまとめて申告することも可能です。


申告前の最終確認チェックリスト

確定申告の前に以下を必ず確認してください。

  • [ ] 高額療養費の給付額(支給決定通知書)が手元にある
  • [ ] 付加給付(健保組合独自給付)がある場合、その金額も把握している
  • [ ] 生命保険・医療保険の入院給付金がある場合、対応する医療費と金額を把握している
  • [ ] 医療費の領収書を医療機関・年ごとに整理している
  • [ ] 通常の医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらが有利か比較した
  • [ ] 差額ベッド料・先進医療費・自由診療費が含まれている場合、高額療養費との対応関係を整理している
  • [ ] 家族(生計を一にする親族)の医療費も合算している
  • [ ] 源泉徴収票を手元に準備している(会社員の場合)

よくある質問

Q1. 高額療養費の申請をまだしていませんが、先に確定申告してもいいですか?

推奨しません。高額療養費の給付額が確定していない状態で申告すると、後から給付額が判明したときに修正申告が必要になります。できれば給付額確定後に申告しましょう。どうしても先に申告する場合は、給付見込み額を含めて計算し、確定後に修正申告を行ってください。

Q2. 高額療養費を受け取った年と医療費控除を申告する年がずれる場合はどうなりますか?

医療費控除は「支払った年」が基準です。高額療養費の給付が翌年になった場合でも、医療費控除は「支払った年(実際に医療費を出した年)」に申告します。ただし補填金は「補填の対象となる医療費を支払った年」の医療費から差し引きます。翌年に給付が確定した場合は、更正の請求(申告期限から5年以内)で修正できます。

Q3. 家族の分もまとめて申告できますか?高額療養費と医療費控除の対象者の範囲は異なりますか?

はい、違いがあります。高額療養費は健康保険の被保険者・被扶養者が対象ですが、医療費控除は生計を一にする親族(健康保険の扶養に入っていない家族も含む場合あり)の医療費を合算できます。ただし、それぞれの家族の高額療養費は、その家族にかかった医療費から差し引いて計算します。

Q4. 国民健康保険の場合、高額療養費の申請は自動ではないのですか?

市区町村によって対応が異なります。一部の自治体では「高額療養費支給申請のお知らせ」が届き、申請書類を返送する方式を取っているところもありますが、原則は申請が必要です。住んでいる市区町村の国民健康保険担当窓口に確認してください。

Q5. 高額療養費で差し引いた後の医療費が10万円以下になってしまいました。医療費控除は申告できませんか?

申告しても医療費控除額はゼロになるため、実質的には申告の効果がありません(マイナスにはなりません)。ただし、総所得金額が200万円未満の方は「総所得金額の5%」が足切り額になるため、10万円以下でも控除が発生する場合があります。

Q6. 差額ベッド料や先進医療の費用は、どちらの制度で扱えばよいですか?

差額ベッド料は高額療養費の対象外ですが、医療費控除の対象になります(入院の必要性が認められる場合)。先進医療の技術料も高額療養費の対象外ですが、医療費控除の対象です。つまり、これらは高額療養費の補填金とは関係なく、そのまま医療費控除の計算に含めることができます。


まとめ

2つの制度を正しく組み合わせることで、医療費の負担を最大限に軽減できます。計算式のポイントは「高額療養費の給付額を必ず差し引く」この1点に集約されます。申請期限(高額療養費は2年以内、還付申告は5年以内)を過ぎると権利が失われてしまいますので、領収書と支給通知書を大切に保管し、早めに手続きを進めることをお勧めします。

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