「市販薬を買ったら医療費控除に使えますか?」という質問は、確定申告の時期になると非常に多く寄せられます。正解は「すべてではなく、条件を満たすものだけが対象」です。特に漢方薬は判定が難しく、健康増進目的と医療目的の境界線があいまいなため、申告漏れや誤申告になるケースが後を絶ちません。本記事では、OTC医薬品・漢方薬の対象判定基準・具体的な商品例・申請手順を一気通貫で解説します。
市販薬(OTC医薬品)は医療費控除の対象になる?基本ルールを整理
処方箋医薬品との違いを確認しよう
医療費控除は所得税法第73条に基づく制度で、支払った医療費が一定額を超えた場合に所得控除を受けられる仕組みです。医薬品については、以下の大原則があります。
| 医薬品の種類 | 医療費控除の対象 |
|---|---|
| 医療用医薬品(Rx):医師の処方箋が必要 | ✅ 全額対象 |
| OTC医薬品(一般用医薬品):薬局で購入できるもの | ⚠️ 医療目的のものだけ対象 |
| 健康食品・サプリメント | ❌ 原則対象外 |
つまり、市販薬は「買ったものが全部使える」わけではありません。購入した目的・成分・用途によって、一つひとつ判定が必要です。この点を把握せずに申告すると、後から税務署に指摘されるリスクがあります。
「医療目的」とはどういう意味か
国税庁の解釈では、医療費控除の対象となる医薬品は「治療または療養に必要なもの」とされています(所得税法施行令第207条)。
- 治療目的 → ✅ 対象(例:風邪の症状を抑えるための総合感冒薬)
- 健康増進・疲労回復・美容目的 → ❌ 対象外(例:滋養強壮ドリンク、美白サプリ)
- 予防目的 → ❌ 原則対象外(例:ビタミン剤の常飲、免疫サポートサプリ)
この「治療か予防か」の境界線が、OTC医薬品の対象判定で最も迷う部分です。次のセクションで具体例を挙げて詳しく解説します。
対象になる市販薬・ならない市販薬 具体的な判定基準
対象になる市販薬の代表例
以下は医療費控除の対象と認められやすいOTC医薬品のカテゴリと商品例です。レシートや領収書を保管しておきましょう。
鎮痛薬・解熱薬
- ロキソニンS、バファリンA、イブA錠、ナロンエースなど
- 頭痛・生理痛・発熱などの症状がある状態で購入・使用したものが対象
- ただし「眠気覚まし成分」や「滋養強壮成分」が主体の製品は対象外になる場合あり
総合感冒薬(風邪薬)
- ルル、パブロンゴールドA、コンタックせきどめ、新ルルA錠Sなど
- 医療用医薬品と同成分(アセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン等)を含むものが対象
- 予防目的での購入は認められません
胃腸薬
- ガスター10(ファモチジンOD錠)、キャベジンコーワα、ビオフェルミン錠剤など
- 胃痛・胃もたれ・胸やけなどの症状がある場合の治療目的で購入したものが対象
- 食べ過ぎ防止・整腸サポートとして日常的に飲む場合は判定がグレーゾーンになりやすい
アレルギー薬・花粉症薬
- アレグラFX、クラリチンEX、アレジオン20など
- これらは医療用医薬品からスイッチOTCになった成分を含み、アレルギー症状の治療目的であれば対象
- ただし、アレルギー症状が出ていない時期の「予防のために飲む」ケースは対象外と判断される場合あります
湿布・外用薬
- ロキソニンテープ、バンテリンコーワローション、フェイタスZαジクサスなど
- 医療用医薬品と同成分(ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど)を含むものが対象
- 外用薬でも、打撲・腰痛・関節痛などの症状を治療する目的であれば対象になります
便秘薬・下痢止め
- スルーラック、コーラックII、ストッパ下痢止めEXなど
- 治療目的での服用であれば対象。継続的な健康維持目的は対象外になる可能性あり
対象にならない市販薬・商品の代表例
| カテゴリ | 具体例 | 対象外の理由 |
|---|---|---|
| ビタミン剤・栄養補助食品 | チョコラBB、ハイチオールC、DHCサプリ | 健康増進・美容目的 |
| 滋養強壮ドリンク | リポビタンD、ユンケル黄帝液 | 疲労回復目的(医療目的ではない) |
| 育毛剤・養毛剤 | リアップ(ミノキシジルOTC) | 美容・育毛目的 |
| 禁煙補助薬 | ニコレット、ニコチネルTTS | 禁煙補助(治療薬ではない)※医師指導下では対象になる場合あり |
| 日焼け止め・スキンケア | 薬用日焼け止め、薬用美白クリーム | 美容目的 |
| 消毒液・マスク | アルコール消毒液、サージカルマスク | 予防・衛生用品 |
| コンタクトレンズ用品 | 洗浄液、保存液 | 医療用具ではなく消耗品 |
注意: 「医薬品」と表示されていても、購入目的が健康増進・美容・予防である場合は対象外です。「医薬品かどうか」ではなく「治療目的かどうか」が判定の核心です。
漢方薬の医療費控除 判定基準と注意点
漢方薬は「すべて対象」ではない
漢方薬は判定が特に複雑です。同じ商品名でも、購入目的によって対象になるかどうかが分かれます。国税庁の見解では、漢方薬についても「治療または療養のために必要な医薬品」である必要があります。
| 購入パターン | 対象判定 |
|---|---|
| 医師・薬剤師に勧められ、症状の治療目的で購入 | ✅ 対象になりやすい |
| 自己判断で体質改善・健康増進目的で購入 | ❌ 対象外 |
| 疲労回復・滋養強壮目的(例:生薬ドリンク) | ❌ 対象外 |
| 処方箋漢方薬(医師が処方) | ✅ 全額対象 |
対象になりやすい漢方薬の例
以下は、医療用医薬品としても存在し、OTC医薬品としても流通している成分を含む漢方薬です。症状の治療目的であれば対象になりやすいとされています。
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう):花粉症・アレルギー性鼻炎・鼻水・くしゃみの治療目的 → ✅
- 葛根湯(かっこんとう):風邪の初期症状・肩こりの治療目的 → ✅
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):虚弱体質改善・疲労回復目的で購入 → ❌(健康増進目的と見なされやすい)
- 六君子湯(りっくんしとう):胃腸虚弱・食欲不振の治療目的 → ✅
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):咽喉の異物感・神経性胃炎の治療目的 → ✅
- 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん):ダイエット・脂肪燃焼目的で購入 → ❌
ポイント: 補中益気湯や防風通聖散は「健康増進・体質改善・ダイエット」目的での広告が多く、実際にそうした目的で購入するケースが大半です。たとえ医薬品区分であっても、購入目的が明確に健康増進であれば対象外と判断されます。
漢方薬の判定が難しい場合の対処法
判定に迷う場合は、以下の方法で確認を取ることを強くお勧めします。
- 薬局・薬剤師への確認:購入時に「これは医療費控除の対象になりますか?」と確認し、その旨をメモしておく
- 医師の診察に基づく購入:医師から「○○を服用するとよい」と指導を受けた場合、その記録(メモ・お薬手帳など)を残しておく
- 税務署への事前照会:判定が不明確な場合は、税務署に事前照会(文書回答制度)を活用することも可能
- 国税庁タックスアンサーの確認:No.1122「医療費控除の対象となる医療費」を参照
セルフメディケーション税制との違いと選択のポイント
2つの制度は併用できない
市販薬に関する税制には「医療費控除」と「セルフメディケーション税制」の2つがあります。どちらか一方しか選択できません(同一年度に両方の適用は不可)。
| 比較項目 | 医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 対象医薬品 | 医療目的のOTC医薬品全般(判定必要) | スイッチOTC医薬品に限定(約3,000品目) |
| 控除の計算方法 | (医療費合計 − 保険金等) − 10万円※ | (スイッチOTC購入額 − 12,000円) |
| 控除上限 | 200万円 | 88,000円(上限) |
| 適用要件 | 特になし | 健康診断・予防接種等を受けていること |
| 対象品目の確認 | 自分で判断が必要 | パッケージに識別マーク(✚印)あり |
※10万円または総所得金額等の5%のいずれか低い金額
ポイント: セルフメディケーション税制の対象薬品はパッケージに「セルフメディケーション税制対象」と明記されています。スイッチOTC医薬品(処方箋薬から転換された市販薬)に限定されているため、対象品目は明確です。一方、通常の医療費控除は対象医薬品の範囲が広い代わりに、自分で判定する必要があります。
どちらを選ぶべきか
医療費控除を選ぶべきケース:
– 年間の医療費(診察費・処方薬・入院費など)が10万円を超えている
– 市販薬以外の医療費(病院・歯科・出産など)も多い
– 市販薬の中にスイッチOTC以外のものも多く含まれる
セルフメディケーション税制を選ぶべきケース:
– 病院にほとんど行かず、市販薬で自己治療することが多い
– 健康診断・予防接種を受けており、スイッチOTC医薬品の購入額が12,000円を超えている
– 年間医療費合計が10万円に届かない
医療費控除の計算式と還付金の目安
控除額の計算式
医療費控除額 = (実際に支払った医療費 − 保険金等で補填された金額)− 10万円
※所得が200万円未満の場合:控除額 = 支払医療費 − 保険金 − 総所得金額の5%
控除の上限は200万円です。
還付金の計算例
例)年収500万円(所得税率20%)、年間医療費15万円(うち市販薬2万円が対象)の場合
医療費控除額 = 15万円 − 0円(保険金なし) − 10万円 = 5万円
還付額の目安 = 5万円 × 20%(所得税率) = 約10,000円
※住民税(10%)の軽減分も加わるため、実際の節税効果は約15,000円
注意: 還付される金額は所得税率によって異なります。所得税率が高いほど還付金額も大きくなります。
申請に必要な書類と手続き方法
必要書類一覧
医療費控除を申告する際に準備すべき書類は以下のとおりです。
| 書類 | 入手先 | 備考 |
|---|---|---|
| 確定申告書(第一表・第二表) | 国税庁HP・税務署 | e-Taxでも作成可能 |
| 医療費控除の明細書 | 国税庁HP・税務署 | 2017年分以降は提出が必須(領収書は自宅保管) |
| 給与所得の源泉徴収票 | 勤務先 | 年末調整済みのもの |
| 医療費の領収書・レシート | 各医療機関・薬局 | 提出不要だが5年間保管義務あり |
| 健康保険組合等の医療費通知 | 健保組合・国保窓口 | 明細書の代わりに使用可(オプション) |
重要: 2017年分の確定申告から、領収書の提出は不要になりました(「医療費控除の明細書」に転記して提出)。ただし、税務署から提示を求められる場合があるため、5年間は手元に保管してください。
レシート・領収書の保管ポイント
市販薬のレシートは薬局のレジで発行される一般的なレシートです。以下の情報が記載されていれば有効です。
- 購入日
- 購入した薬局・ドラッグストア名
- 購入した医薬品名(または「医薬品」「薬品」等の記載)
- 金額
注意: ドラッグストアのレシートには食品・日用品と医薬品が混在することがあります。医薬品だけを別に購入するか、医薬品レシートを別途発行してもらうよう店員に依頼すると管理が楽になります。最近は「お薬手帳アプリ」や「ドラッグストアのアプリ」でも購入記録を管理できます。
申告手続きの流れ
Step 1:レシート・領収書を1年分整理する(1月〜12月分)
市販薬のレシートを月ごとに分類し、医療費控除の対象になるものと対象外を仕分けします。
Step 2:医療費控除の明細書を作成する
国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」を利用するか、紙の明細書に手書きで記入します。以下の項目を記載してください。
- 医療を受けた人の氏名
- 病院・薬局等の名称
- 医療費の区分(医薬品購入費など)
- 支払った金額・補填された金額
Step 3:確定申告書を作成・提出する
- e-Tax(電子申告):マイナンバーカードとスマートフォンまたはPCで申告可能。24時間受付、還付も早い
- 郵送:確定申告書と明細書を管轄税務署に郵送
- 窓口提出:税務署の確定申告期間中(2月16日〜3月15日)に直接提出
Step 4:還付金の受取
申告後、約1〜2カ月で指定口座に還付金が振り込まれます。e-Taxの場合は処理が早く、3週間程度で還付されることも多いです。
申告期限と注意点
- 確定申告期間: 毎年2月16日〜3月15日(医療費控除のための還付申告は1月1日から可能)
- 還付申告の有効期限: 翌年1月1日から5年間(過去5年分まで遡って申告できます)
- 住民税申告: 所得税の確定申告を提出すれば、住民税の申告は不要です
申告時のよくある間違いと注意点
間違い① 市販薬をすべて計上してしまう
最も多いミスです。ビタミン剤・栄養ドリンク・日焼け止め・マスクなどを医療費として計上するのは誤りです。税務署の調査で指摘されると、修正申告と過少申告加算税が発生する可能性があります。
間違い② 漢方薬を全部対象にしてしまう
漢方薬は医薬品表示があっても、健康増進・疲労回復目的のものは対象外です。特に防風通聖散(ダイエット目的)や補中益気湯(滋養強壮目的)での購入は対象外と見なされやすいため、注意が必要です。
間違い③ 家族の医療費を忘れる
生計を一にする家族(配偶者・子ども・同居の親族)の医療費も合算できます。それぞれのレシートをまとめて管理するようにしましょう。別居の親に仕送りをしている場合も、生計を一にしているとみなされ対象になります。
間違い④ 保険金・高額療養費の差し引きを忘れる
健康保険から支給された高額療養費・付加給付金や、生命保険・医療保険から支払われた入院給付金・手術給付金は、対応する医療費から差し引く必要があります。差し引かずに申告すると過大申告になります。ただし、差し引く金額は対応する医療費を上限とし、他の医療費から引くことはありません。
間違い⑤ セルフメディケーション税制と二重申告する
医療費控除とセルフメディケーション税制は同じ年に重複して使えません。どちらが有利かを計算したうえで、一方のみを選択してください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. ドラッグストアで医薬品と食品を一緒に買いました。レシートはどう扱いますか?
レシートが1枚に混在していても問題ありません。「医療費控除の明細書」には医薬品分の金額のみを記載してください。レシート1枚を全額計上するのは誤りです。レシートにハイライトを引くなどして、医薬品分を明確にしておくと税務署からの問い合わせに対応しやすくなります。
Q2. 漢方薬を医師に勧められて購入しました。対象になりますか?
医師から治療上の指導・推薦を受けて購入した漢方薬は、医療目的として認められる可能性が高いです。お薬手帳に記録したり、診察時のメモを残したりして、医師の指導に基づく購入であることを証明できるようにしておくと安心です。
Q3. 市販薬だけで医療費が10万円を超えるのは難しいです。何か方法はありますか?
市販薬だけでなく、病院の診察費・処方箋薬・歯科治療費・入院費・出産費用なども合算できます。市販薬は補助的な位置づけで計上し、他の医療費と組み合わせて10万円を超えるかどうかを確認してください。また、所得が200万円未満の場合は「総所得金額の5%」が控除下限になるため、10万円以下でも控除が受けられる場合があります。
Q4. 過去に申告し忘れた年の市販薬も遡って申告できますか?
医療費控除の還付申告は、対象年の翌年1月1日から5年間さかのぼって申告できます。例えば2025年時点では2020年分まで申告可能です。過去のレシートがある場合は、ぜひ遡って申告を検討してください。
Q5. e-Taxを使えば、市販薬の明細入力も簡単になりますか?
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は年々改善されており、医療費の入力画面が整備されています。また、健康保険組合の医療費通知データ(XML形式)をe-Taxに取り込む機能もあります。市販薬のレシートは手動入力が必要ですが、画面に沿って入力するだけなので難しくありません。スマートフォンからも申告できます。
Q6. 第1類・第2類・第3類医薬品という区分は医療費控除の判定に関係しますか?
直接の判定基準ではありません。医薬品区分(第1類〜第3類)はリスクの高さを示す分類であり、医療費控除の対象かどうかは「治療目的かどうか」で判断されます。ただし、第1類医薬品(薬剤師のみ販売可能)はスイッチOTCが多く含まれるため、セルフメディケーション税制の対象品目と重なることが多いです。
まとめ:OTC医薬品・漢方の医療費控除 チェックリスト
最後に、申告前の確認事項をまとめます。
対象判定チェック:
– [ ] 購入した市販薬は「治療目的」であるか
– [ ] 健康増進・予防・美容目的の商品を除外できているか
– [ ] 漢方薬の場合、症状の治療目的であることが説明できるか
– [ ] ビタミン剤・栄養ドリンクを除外できているか
書類準備チェック:
– [ ] 1月〜12月分の医薬品レシートを保管できているか
– [ ] 家族分(生計を一にする親族)のレシートも含めたか
– [ ] 保険金・高額療養費など補填された金額を把握しているか
申告方法チェック:
– [ ] 医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらが有利か試算したか
– [ ] 医療費控除の明細書を作成したか
– [ ] 申告期限(3月15日、または還付申告は5年以内)を確認したか
市販薬の医療費控除は、正しく申告すれば確実に節税につながります。「全部は対象外」でも「全部対象外」でもありません。一つひとつ丁寧に判定し、正確な申告を心がけましょう。
免責事項: 本記事は2025年時点の税制に基づく情報提供を目的としたものです。個別の判定・申告については、税務署または税理士にご相談ください。

