NIPTで陽性判定が出た、羊水検査を勧められた——そのとき最初に頭をよぎるのが、医療費の不安ではないでしょうか。出生前診断から確定診断、そして治療・中絶手術・心理療法に至るまで、各段階でどの制度が使えるのかを把握しておくことは、精神的な余裕をつくるうえでも非常に重要です。
本記事では、NIPTが高額療養費の対象外である理由から、羊水検査・中絶手術・遺伝カウンセリング・心理療法がどの制度でいくら還付されるかまで、2025年最新情報をもとに計算式・申請手順・必要書類を一括で解説します。ご自身のケースに当てはめながら、ぜひ活用してください。
NIPTと確定診断の「保険適用・非適用」を最初に整理する
高額療養費制度や医療費控除を正しく活用するためには、まず「どの検査・治療が保険診療か」を把握することが不可欠です。同じ出生前診断プロセスの中でも、保険が効く部分と効かない部分が混在しているため、整理せずに申請すると計算を誤ることがあります。
各段階の保険適用・制度対象マップ
| 段階 | 医療行為 | 保険適用 | 高額療養費対象 | 医療費控除対象 |
|---|---|---|---|---|
| 診断① | NIPT(新型出生前診断) | ❌ 自費 | ❌ | ⚠️ 条件付き |
| 診断② | 羊水検査(確定診断) | ✅ | ✅ | ✅ |
| 診断③ | 絨毛膜絨毛検査(CVS) | ✅ | ✅ | ✅ |
| 診断④ | 詳細超音波検査 | ✅ | ✅ | ✅ |
| 診断⑤ | 遺伝カウンセリング | ✅ | ✅ | ✅ |
| 治療① | 人工妊娠中絶(初期) | ✅ | ✅ | ✅ |
| 治療② | 人工妊娠中絶(中期入院) | ✅ | ✅ | ✅ |
| 治療③ | 心理療法・カウンセリング | ✅保険診療のみ | ✅ | ✅ |
⚠️ NIPTの医療費控除については後述の「NIPTを医療費控除に含める条件」を参照してください。
この表が示す重要なポイントは、NIPT以外はほぼすべて保険診療であり、高額療養費の対象となるという点です。NIPTを起点に複数の保険診療が重なるケースでは、世帯合算や多数回該当の適用によって自己負担が大幅に減る可能性があります。
NIPTが高額療養費の対象外になる理由と医療費控除の例外規定
NIPTが自費診療である根拠
NIPTは2013年に日本産科婦人科学会の指針のもとで臨床研究として開始されました。2022年以降は認定施設制度が整備されましたが、保険診療として収載されていないため、全額自己負担(3万〜21万円程度)となります。自費診療である以上、高額療養費制度の対象にはなりません。
費用の目安: NIPTの検査費用は施設により異なりますが、一般的に3万〜21万円程度です。染色体全体を検査する拡張型NIPTは費用が高くなる傾向があります。
NIPTを医療費控除に含める「条件付き適用」
自費診療であっても、医療費控除の対象になる場合があります。国税庁の取り扱いでは、以下の条件を満たす場合にNIPTを医療費控除の対象に含めることが認められる可能性があります。
【NIPTを医療費控除に含める条件】
① 医師の指示・判断に基づいて実施されたこと
② 羊水検査・CVSなど確定診断検査へ進んでいること
③ 診断目的であり、治療の前段階として位置づけられること
④ 領収書・診療明細書を保管していること
ただしこの解釈は確定的ではなく、税務署の判断によって異なる場合があります。申告前に最寄りの税務署または税理士に確認することを強くお勧めします。確定申告の際には、NIPT施設の領収書と、その後の確定診断検査の領収書をセットで提示できるよう保管しておきましょう。
高額療養費制度の基本と所得区分別の自己負担限度額(2025年版)
高額療養費制度の仕組み
高額療養費制度とは、1か月(1日〜末日)に支払った保険診療の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、超過分を後から還付する制度です(健康保険法107条〜115条)。
重要なのは「1か月単位」「保険診療のみ」「世帯合算が可能」という3点です。
所得区分と自己負担限度額の計算式
自己負担限度額は、加入している健康保険の種別と所得区分(ア〜オ)によって決まります。
| 所得区分 | 対象 | 1か月の自己負担限度額 |
|---|---|---|
| ア | 年収約1,160万円〜(標準報酬月額83万円以上) | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
| イ | 年収約770〜1,160万円(標準報酬月額53〜79万円) | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
| ウ | 年収約370〜770万円(標準報酬月額28〜50万円) | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
| エ | 年収約156〜370万円(標準報酬月額26万円以下) | 57,600円(上限固定) |
| オ | 住民税非課税世帯 | 35,400円(上限固定) |
国民健康保険の場合: 市区町村によって区分の名称や金額が若干異なります。加入先の市区町村窓口または国保担当部署に確認してください。
計算例:所得区分「ウ」で羊水検査+中絶入院した場合
【ケース設定】
・所得区分:ウ(年収500万円、夫婦共働き・妻が被保険者)
・当月の保険診療費:
─ 羊水検査(確定診断):自己負担 25,000円
─ 遺伝カウンセリング:自己負担 3,000円
─ 中期中絶入院(5日間):自己負担 150,000円
合計保険診療自己負担:178,000円
【限度額の計算】
仮に総医療費(10割)が600,000円とすると:
80,100円+(600,000円-267,000円)×1%
= 80,100円+3,330円
= 83,430円
【還付額】
178,000円 - 83,430円 = 94,570円が還付される
この計算例では約9万5千円の還付が発生します。申請しなければそのまま手元に戻らないお金です。
世帯合算・多数回該当でさらに負担を減らす
世帯合算の仕組み
同一の健康保険に加入している世帯員全員の、同一月内の保険診療自己負担額を合算して限度額と比較することができます。たとえば、妻が羊水検査・中絶を受けた月に、夫が別の疾患で入院していた場合、両者の自己負担を合算して高額療養費を請求できます。
【世帯合算の条件】
① 同じ健康保険(同一保険者)に加入していること
② 同一月(1日〜末日)内の自己負担であること
③ それぞれの自己負担が21,000円以上であること(70歳未満の場合)
多数回該当:4か月目から限度額がさらに下がる
過去12か月以内に高額療養費の支給を3回以上受けた場合、4回目以降は「多数回該当」として限度額が引き下げられます。
| 所得区分 | 通常の限度額 | 多数回該当後の限度額 |
|---|---|---|
| ア | 252,600円+α | 140,100円 |
| イ | 167,400円+α | 93,000円 |
| ウ | 80,100円+α | 44,400円 |
| エ | 57,600円 | 44,400円 |
| オ | 35,400円 | 24,600円 |
出生前診断から確定診断・治療までが複数月にわたる場合は、多数回該当に達する可能性があります。申請月数をカウントしながら管理することが重要です。
高額療養費の申請手順と必要書類
事後申請(最も一般的な方法)
治療後に健康保険組合や協会けんぽ・市区町村国保に申請する方法です。
申請期限:診療月の翌月1日から2年以内(時効に注意してください)
【必要書類】
□ 高額療養費支給申請書(保険者所定の様式)
□ 健康保険証(コピー可)
□ 診療報酬明細書または領収書(保険診療分)
□ 振込先口座を確認できるもの(通帳のコピーなど)
□ マイナンバーカードまたは本人確認書類
※ 世帯合算の場合:世帯全員分の領収書・明細書
申請先:
– 協会けんぽ加入 → 協会けんぽ各都道府県支部
– 健康保険組合加入 → 加入している健康保険組合
– 国民健康保険加入 → 住所地の市区町村国保担当窓口
限度額適用認定証を使った「事前手続き」
入院が見込まれる場合(中期中絶の入院など)は、事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、病院窓口での支払いが最初から限度額までに抑えられます。退院後に多額の現金を準備する必要がなくなるため、精神的・経済的な負担を大幅に軽減できます。
【限度額適用認定証の取得手順】
① 加入している健康保険の窓口に申請(電話・郵送・オンライン対応あり)
② 申請書に必要事項を記入し、健康保険証のコピーを添付
③ 認定証が届いたら入院前に病院の受付に提示
④ 退院時の支払いが自己負担限度額までになる
※ 有効期限:申請月から最長1年間(更新可能)
※ マイナ保険証を使用している場合は提示不要の場合あり
中絶手術の費用と高額療養費・出産育児一時金の関係
初期中絶と中期中絶の費用・保険適用の違い
出生前診断の結果を受けて人工妊娠中絶を行う場合、母体保護法に基づく手術として実施されます。初期(12週未満)と中期(12〜22週未満)では手術方法・入院期間・費用が大きく異なります。
| 区分 | 妊娠週数 | 手術方法 | 入院期間 | 自己負担目安(保険適用後) | 高額療養費対象 |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期中絶 | 12週未満 | 掻爬法・吸引法 | 日帰り〜1泊 | 10,000〜50,000円程度 | ✅ |
| 中期中絶 | 12〜22週未満 | 分娩誘発法 | 3〜7日入院 | 100,000〜200,000円程度 | ✅ |
注意: 中期中絶は「死産届」の提出が必要です。また施設によって費用は大きく異なります。上記はあくまで目安です。
中期中絶と「出産育児一時金」の関係
妊娠22週未満の人工妊娠中絶・死産の場合、出産育児一時金(一児あたり50万円)は支給されません。ただし妊娠22週以降の死産・流産の場合は支給対象となります。中期中絶(12〜22週未満)の大半は支給対象外となるため、高額療養費と医療費控除を最大限に活用することが重要です。
遺伝カウンセリング・心理療法の費用と申請方法
遺伝カウンセリングの保険診療点数
遺伝カウンセリングは、専門の遺伝カウンセラーまたは医師が行う場合、保険診療(診療報酬加算)として算定されます。加算点数は施設・内容によって異なりますが、自己負担は通常3,000〜10,000円程度です。高額療養費の計算に含めることができます。
心理療法・カウンセリングの費用と対象判定
【高額療養費・医療費控除の対象となる心理療法の条件】
① 医師の指示に基づいて実施されていること
② 保険診療として算定されていること(自費カウンセリングは対象外)
③ 診療報酬上の「精神科専門療法」として記録されていること
【自費カウンセリングの取り扱い】
・高額療養費:❌ 対象外
・医療費控除:⚠️ 医師の指示があれば対象になる場合あり
精神科・心療内科で受ける保険診療内のカウンセリング(心理士・公認心理師による「心理療法」として算定)は、保険診療費用として高額療養費の計算に含まれます。一方、クリニック外で行う自費カウンセリングは保険の対象外ですが、医師の処方・指示書があれば医療費控除の対象になる可能性があります。
医療費控除で確定申告する方法
医療費控除の基本計算式
【医療費控除額の計算式】
医療費控除額 = 年間の医療費合計 - 保険給付金等 - 10万円
(所得が200万円未満の場合:所得×5%を10万円の代わりに使用)
【控除上限】
最大200万円
【税金の還付額の目安】
還付額 = 医療費控除額 × 所得税率(5〜45%)
確定申告に必要な書類
【医療費控除 確定申告 必要書類一覧】
□ 確定申告書(国税庁サイトのe-Taxで作成可能)
□ 医療費控除の明細書(様式:国税庁所定)
□ 医療費通知(健康保険組合から届く場合あり)
□ 領収書・診療明細書(NIPT含む全段階のもの)
□ 源泉徴収票(給与所得者の場合)
□ 高額療養費・保険給付金の受取明細(受け取った金額を差し引く必要あり)
計算例:年間医療費が40万円の場合
【ケース設定】
・年間医療費合計:400,000円
─ NIPT:80,000円(医師指示あり・条件付き対象として含める)
─ 羊水検査:25,000円
─ 遺伝カウンセリング:6,000円
─ 中期中絶入院:250,000円
─ 心理療法(保険診療):39,000円
・高額療養費で還付済:94,570円
・保険給付金差引後の実質負担:400,000円 - 94,570円 = 305,430円
【控除額計算】
305,430円 - 100,000円 = 205,430円が医療費控除額
【還付税額の目安(税率20%の場合)】
205,430円 × 20% = 約41,086円の税金還付
傷病手当金が使える場合の条件
中期中絶の入院や、術後の療養・心理的な不調により就業困難な状態が続く場合は、傷病手当金(健康保険法99条)の申請も検討してください。
【傷病手当金の支給条件】
① 業務外の疾病・負傷による療養であること
② 就労不能の状態であること(医師の証明が必要)
③ 連続して3日以上休業していること(待期3日間)
④ 給与が支払われていないこと(または支払い額が傷病手当金より少ない)
【支給額】
1日あたり:標準報酬日額 × 2/3
支給期間:通算1年6か月
医師に「就労不能証明」を記載してもらい、勤務先の人事・総務担当を通じて申請します。
申請時の注意点と失敗しやすいポイント
注意点①:自費診療と保険診療を混在させない
高額療養費は保険診療のみが対象です。同一月にNIPT(自費)と羊水検査(保険)を受けた場合、NIPTの費用は高額療養費の計算から除外してください。混在させて申請すると、審査で差し戻される原因になります。
注意点②:領収書は診察のたびに必ず保管する
診断から治療まで複数の医療機関にわたることが多い出生前診断プロセスでは、各施設・各受診日の領収書と診療明細書をすべて保管することが必須です。後から再発行できない場合があります。
注意点③:申請期限の2年間を意識する
高額療養費の申請期限は「診療月の翌月1日から2年間」です。精神的に辛い時期が続くと申請が後回しになることがありますが、2年を超えると時効で申請できなくなります。手続きを代理で行う家族と役割分担しておくことをお勧めします。
注意点④:高額療養費の還付分を医療費控除から差し引く
医療費控除の計算では、高額療養費として受け取った金額を医療費から差し引く必要があります(保険給付金の控除)。差し引きを忘れて過大申告すると税務調査の対象になる場合があります。
注意点⑤:複数の制度を組み合わせて最大化する
高額療養費・医療費控除・傷病手当金はそれぞれ独立した制度であり、重複して申請することが可能です(医療費控除では受け取った給付金を差し引く調整が必要)。使える制度をすべて把握し、組み合わせて申請することで自己負担を最小化できます。
よくある質問
Q1. NIPTで陰性だったが羊水検査も受けた。どちらの費用も医療費控除の対象になりますか?
羊水検査は保険診療のため、医療費控除・高額療養費ともに対象です。NIPTについては、医師の指示があり診断目的であることが明確であれば医療費控除に含められる可能性があります。ただし陰性で羊水検査へ進まなかった場合は、NIPTの控除適用が認められにくい傾向があります。税務署または税理士にご確認ください。
Q2. 中絶手術後に精神科を受診した。そのカウンセリング費用は対象になりますか?
保険診療として算定された精神科・心療内科の診療費(心理療法加算を含む)は、高額療養費の合算対象であり医療費控除の対象にもなります。一方、病院外での自費カウンセリング費用は高額療養費の対象外ですが、医師の指示書(診療情報提供書など)があれば医療費控除の対象になる場合があります。
Q3. 夫の扶養に入っている妻がNIPT・羊水検査・中絶を受けた。高額療養費の申請は夫名義でできますか?
被扶養者の医療費も、被保険者(夫)の健康保険から給付されます。申請書は被保険者(夫)の名義で提出します。ただし医療費控除の確定申告は、夫婦どちらの申告に合算するかを選択できます(所得税率の高い側に合算するのが節税上有利です)。
Q4. 限度額適用認定証の申請が入院に間に合わなかった。それでも高額療養費は受け取れますか?
はい、受け取れます。限度額適用認定証はあくまで「窓口での支払いを限度額に抑える便宜的な仕組み」であり、認定証がなくても事後申請によって超過分は還付されます。申請期限(診療月翌月1日から2年以内)以内に事後申請を行ってください。
Q5. 羊水検査から中絶入院まで2か月にまたがった。それぞれの月で申請が必要ですか?
高額療養費は1か月(1日〜末日)単位での計算です。2か月にわたる場合は各月ごとに限度額と比較し、それぞれの月で超過があれば各月に申請します。月をまたいだ費用の合算はできないため、受診日が月末・月初にかかる場合は特に注意が必要です。
Q6. 遺伝カウンセリングを複数の医療機関で受けた。世帯合算できますか?
世帯合算は同一保険者(健康保険)に加入している家族の医療費を合算する制度です。受診した医療機関が異なっていても、保険が同一であれば合算できます(70歳未満の場合、それぞれの自己負担が21,000円以上であることが条件)。複数施設の領収書と明細書をすべて揃えて申請してください。
まとめ:NIPTから治療まで「使える制度」を段階ごとに把握して申請する
本記事で解説した内容を最後に整理します。
【段階別・活用すべき制度まとめ】
■ NIPT(自費診断)
→ 高額療養費:❌
→ 医療費控除:⚠️ 医師指示+確定診断へ進む場合は可能性あり
■ 羊水検査・CVS・詳細超音波・遺伝カウンセリング
→ 高額療養費:✅(保険診療として計算)
→ 医療費控除:✅
→ 限度額適用認定証:✅(入院を伴う場合)
■ 人工妊娠中絶(初期・中期)
→ 高額療養費:✅(特に中期入院は高額になるため必ず申請)
→ 医療費控除:✅
→ 出産育児一時金:❌(22週未満は対象外)
→ 傷病手当金:✅(就業不能な場合)
■ 心理療法・カウンセリング
→ 高額療養費:✅(保険診療のみ)
→ 医療費控除:✅(保険診療+医師指示の自費も条件付き)
出生前診断を巡る医療は、精神的に非常に辛い時期と重なります。制度の申請は「後からできること」として、まずはご自身と家族の心身を優先してください。その上で、本記事を手元に置きながら、申請できる制度を一つずつ確認・手続きしていただければ幸いです。不明な点は、健康保険組合の窓口・市区町村の国保担当・税務署・社会保険労務士・税理士にご相談ください。
免責事項: 本記事は2025年時点の情報に基づき作成しています。制度の詳細・個別の適用判断については、加入している健康保険・税務署・医療機関に必ずご確認ください。本記事の内容は医療行為の推奨や個別の税務・法律アドバイスを目的とするものではありません。

