高額療養費の受領委任払いと貸付制度|国保・協会けんぽの違いとマイナ保険証で不要になる場合

高額療養費制度

高額療養費の「受領委任払い」は、全国共通の制度ではありません。国民健康保険(国保)を運営する市区町村などが、自分で決めて設けている仕組みです。協会けんぽには、これとは別に「高額医療費貸付制度」があります。高額療養費として支給される見込みの額の8割相当額を、無利子で借りられる制度です。ただし、どちらを使うか考える前に確認したいことがあります。マイナ保険証か限度額適用認定証を窓口で使えば、自己負担限度額を超える分はそもそも窓口で払わずに済みます。

この記事は、「入院費が高額で一度に払えない」と困っている本人・家族と、病院の医事課や保険者の窓口で制度を案内する担当者に向けたものです。受領委任払いと貸付制度の違い、どこに何を出すか、どちらも要らないのはどんな場合かを順に整理します。2026年8月診療分からの高額療養費制度の見直しで変わる点も、最後に補足します。

最初に確認すること:窓口の支払いを限度額までに抑えられるか

受領委任払いや貸付制度は、窓口でいったん高額な支払いが生じたとき(または請求を受けたとき)のお金のやりくりを助ける仕組みです。窓口の支払いを最初から自己負担限度額までに抑えられるなら、これらの手続きは要りません。自己負担限度額とは、所得と年齢に応じて決まる1か月の支払いの上限です。

厚生労働省によると、平成24年4月から、入院だけでなく外来でも、限度額適用認定証などを出せば上限額を超える分を窓口で払う必要がなくなりました。この扱いを受けるには、マイナ保険証を使うか、事前に限度額適用認定証を受け取っておく必要があります。マイナ保険証を使えば、限度額適用認定証がなくても、保険診療については限度額を超える分を払う必要はありません。なお、入院時の食費や差額ベッド代は限度額の対象外です。

次の順に確認すると迷いにくくなります。

  1. 受診する医療機関でマイナ保険証が使えるか(オンライン資格確認を導入しているか)を確かめます。使えれば、原則として認定証の申請も、受領委任払い・貸付も要りません。
  2. マイナ保険証が使えない場合や、加入先にマイナンバーが登録されていない場合は、限度額適用認定証を事前に申請して窓口に出します。協会けんぽでは、申請書を受け付けた月より前の月の分は交付できないとしています。入院が決まったら早めに申請してください。
  3. 低所得者に当たる人は、協会けんぽの場合、マイナ保険証を使うときでも「限度額適用・標準負担額減額認定証」の申請が必要です(詳しくは限度額適用認定証の低所得者区分)。
  4. それでも窓口で高額な支払いが生じた場合(認定証が間に合わなかった、出し忘れたなど)に、受領委任払い・貸付制度か、後日の高額療養費の支給申請を考えます。

認定証の申請手順は限度額適用認定証の申請方法と使い方で、認定証を出せずに全額を払ったあとの払い戻しは限度額適用認定証を忘れたときの払戻請求と計算方法で詳しく解説しています。

受領委任払いと高額医療費貸付制度の違い

どちらも、高額療養費が支給されるまでの数か月の立て替えを軽くするための仕組みです。ただし、法令上の根拠も、実施する機関も異なります。協会けんぽは、高額療養費の支給には医療機関から届く診療報酬明細書の確認が必要なため、診療月から3か月以上かかると案内しています。

項目 国保などの受領委任払い・貸付 協会けんぽの高額医療費貸付制度
実施主体 実施している市区町村など(実施するかは保険者が判断) 全国健康保険協会(協会けんぽ)
仕組み 受領委任:高額療養費の受け取りを医療機関に任せ、保険者が医療機関へ支給する方式。貸付:支給までの間、費用を払うための資金を貸す方式 高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で貸し付け、高額療養費の支給時に精算
申請先 住所地の市区町村の国保担当窓口 加入している協会けんぽの都道府県支部
対象・条件・必要書類 市区町村ごとの条例・要綱で決まる 協会けんぽが定める書類(後述)

厚生労働省のサイトには、市区町村の国保システムを全国で統一する(標準化する)ための検討資料が載っています。この資料は、「高額療養費貸付(受領委任)」の制度自体は残っているとしています。一方で、オンライン資格確認により医療機関が所得区分を確認できるようになるため、将来は必要性が小さくなるという見方も示しています。また、高額療養費貸付は国民健康保険法第82条第7項の「できる」規定に基づくため、実施するかどうかは保険者の判断になると整理しています。つまり、受領委任払いがあるかどうかは住んでいる市区町村しだいです。

国保の受領委任払い・貸付:対象と申請先

国保の受領委任払いや貸付の対象・条件・様式は、市区町村がそれぞれ定めています。この記事では、個別の市区町村の要綱は載せていません。実施しているかどうかと条件は、必ず住所地の国保担当窓口で確認してください。厚生労働省は、資格情報に市区町村名が書かれている人はその市区町村の国保窓口に問い合わせるよう案内しています。

国が示した参考例(昭和60年通知)

国保の貸付事業については、厚生省(当時)が昭和60年1月23日の通知(保険発第6号)で「国民健康保険高額医療費資金貸付条例参考例」を示しています。これは市区町村が条例を作るときの参考例にすぎず、実際の条件は各市区町村の条例・要綱で決まります。それでも、制度の骨組みをつかむのには役立ちます。

項目 参考例の内容
貸付の相手 高額療養費の支給を受ける見込みがある被保険者が属する世帯の世帯主
要件 高額療養費の支給見込みがあること。医療機関等から請求を受けたか、費用を支払ったこと(他の法令で負担される場合を除く)
貸付額 参考例では割合を空欄にしている。通知本文は、貸付限度額を「支給見込額の8割」を基準とするのが適当としている
利息 付けない
申込み 申込書に、療養費用の内訳が書かれた請求書または領収書を付ける。同時に高額療養費の支給申請も行う
決定後 決定通知書を受けたら借用証を出す。貸付は窓口での現金払いか、金融機関への振込
返済 高額療養費の支給時に貸付金と相殺し、差額を支給する。高額療養費が貸付額に届かないときは、差額を返済する

受領委任払いの具体的な手順は、国の参考例には含まれていません。前述の標準化の検討資料には、支給方法(「窓口」「口座」「医療機関口座」)を管理する項目や、受領委任で医療機関に支給した情報を登録する項目があります。支給額から保険料(税)に充てる額を差し引ける管理項目も含まれています。案内する担当者は、医療機関の同意が要るかどうかや保険料の扱いも含めて、その市区町村の要綱を確認しておくと説明がぶれません。

後期高齢者医療制度の場合

後期高齢者医療制度については、受領委任払いや貸付の全国共通ルールを国の資料で確認できませんでした。資格情報に「○○後期高齢者医療広域連合」と書かれている人は、その広域連合に独自の仕組みがあるかを問い合わせてください。限度額適用認定証の交付手続きについては、厚生労働省は市町村(国民健康保険・後期高齢者医療制度)などに問い合わせるよう案内しています。

協会けんぽの高額医療費貸付制度:書類・金額・返済

協会けんぽの加入者は、協会けんぽの高額医療費貸付制度を使えます。高額療養費支給見込額の8割相当額を、無利子で借りられます。

項目 内容
貸付額 高額療養費支給見込額の8割相当額
利息 無利子
提出書類 高額医療費貸付金貸付申込書、高額医療費貸付金借用書、領収書または請求書。これらを健康保険高額療養費支給申請書に付けて出す
領収書・請求書がない場合 医療機関に「医療費請求書」を書いてもらう(用紙は協会けんぽ各支部にある)。保険点数(保険診療対象総数)がわかるものが必要
提出先 加入している協会けんぽの都道府県支部
返済 支給される高額療養費を返済に充て、残りは支給申請書で指定した金融機関に振り込まれる。精算後に借用書が返される
精算できなかった場合 医療費の減額や不支給などで返済されない・足りない場合は返納通知書が届くので、期日までに返す

借りられる額の目安は、自分の自己負担限度額から計算できます。例として、次の場合を仮定します。

  • 2026年8月以降の診療
  • 70歳未満・区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円)
  • 総医療費100万円の入院で、窓口で30万円を払った

自己負担限度額は「85,800円+(100万円−286,000円)×1%」で92,940円です。高額療養費の見込額は30万円から92,940円を引いた207,060円で、その8割の165,648円(約16.6万円)が目安になります。実際の額は協会けんぽの審査で決まります。

病院の医事課は、患者が領収書・請求書を持っていないときに、医療費請求書の記入を頼まれることがあります。保険点数が読み取れるように書くことが前提です。

2026年8月の高額療養費制度見直しで変わる点

高額療養費制度は令和8年(2026年)8月診療分から見直されました。月ごとの自己負担限度額が改定され、新たに「年間上限」も設けられています。年間上限とは、8月から翌年7月までの12か月の自己負担の上限です。令和9年(2027年)8月からは、所得区分を細かく分けることが予定されています。協会けんぽが示す70歳未満の限度額は次のとおりです。

所得区分(標準報酬月額) 月額の自己負担限度額(令和8年8月〜令和9年7月) 多数回該当 年間上限額
ア:83万円以上 270,300円+(総医療費−901,000円)×1% 140,100円 168万円
イ:53万〜79万円 179,100円+(総医療費−597,000円)×1% 93,000円 111万円
ウ:28万〜50万円 85,800円+(総医療費−286,000円)×1% 44,400円 53万円
エ:26万円以下 61,500円 44,400円 53万円
オ:低所得者(被保険者が住民税非課税で、ア・イに当たらない人) 36,900円 24,600円 29万円

表は協会けんぽの所得区分(標準報酬月額)で書いています。区分エのうち、標準報酬月額15万円以下と確認できた人には年間上限41万円が適用され、令和9年8月以降に払い戻されます。国保・後期高齢者医療の区分の決め方は、加入先で確認してください。協会けんぽは、自分の所得区分をマイナポータル(健康保険証の「限度額適用認定証関連の情報」)で確認できると案内しています。

受領委任払い・貸付との関係で押さえたいのは次の2点です。

  • 年間上限に達した後の自己負担は、保険者から払い戻しを受ける仕組みです。協会けんぽは、年間上限額の高額療養費の申請受付を令和9年8月から始めるとしています。
  • 協会けんぽが令和8年8月以降に交付する限度額適用認定証は、所得区分の見直しに合わせて、有効期限が最長で令和9年7月31日までです。その後も必要なら、令和9年8月以降に改めて申請します。

よくある質問

Q. 受領委任払いは、どこの国保でも使えますか?

A. いいえ。高額療養費の貸付(受領委任)は、実施するかどうかを保険者が判断する仕組みとされています。実施していない市区町村もあり得ます。まず住所地の国保担当窓口で、実施の有無、対象者の条件、必要書類を確認してください。

Q. マイナ保険証を持っていれば、貸付や受領委任払いは要りませんか?

A. オンライン資格確認を導入した医療機関でマイナ保険証を使えば、保険診療分は限度額を超えて払う必要がないので、通常は要りません。ただし、食費や差額ベッド代などは対象外です。また協会けんぽでは、低所得者に当たる人はマイナ保険証を使う場合でも減額認定証の申請が必要です。

Q. 協会けんぽの貸付金は、別に返済する必要がありますか?

A. 通常は、支給される高額療養費がそのまま返済に充てられ、残りが指定口座に振り込まれます。医療費の減額や高額療養費の不支給などで精算しきれない場合に限り、返納通知書に従って返します。

Q. 健康保険組合や共済組合に加入している場合はどうなりますか?

A. この記事で取り上げた貸付制度は協会けんぽのものです。健康保険組合や共済組合の場合は、加入している組合に貸付などの仕組みがあるかを直接確認してください。限度額適用認定証の交付手続きも、加入先の保険者に問い合わせます。

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まとめ

  • マイナ保険証か限度額適用認定証を窓口で使えば、保険診療分の支払いは自己負担限度額までになります。受領委任払いも貸付も、通常は要りません。
  • 国保の受領委任払い・貸付は、市区町村などが実施するかどうかを決める仕組みです。条件や書類は各市区町村の条例・要綱で決まるので、住所地の国保窓口で確認します。
  • 協会けんぽの高額医療費貸付制度では、高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で借りられます。申込書・借用書・領収書などを支給申請書に付けて、支部に出します。
  • 後期高齢者医療については国の共通ルールを確認できなかったため、広域連合または市区町村の窓口に問い合わせます。
  • 2026年8月診療分から限度額が改定され、年間上限が新しく設けられました。協会けんぽの認定証は、有効期限が最長2027年7月31日までで交付されます。

出典

  • 国民健康保険法第57条の2(高額療養費)、第82条(保健事業。高額療養費貸付の根拠として厚生労働省資料が第7項を引用)
  • 「国民健康保険における高額医療費に係る資金の貸付事業の実施について」(昭和60年1月23日保険発第6号)
  • 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)
  • 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」
  • 厚生労働省掲載資料「議題一覧(機能・帳票要件)(給付管理)」(国民健康保険システム標準化の検討資料)
  • 全国健康保険協会「高額療養費」「限度額適用認定証」
  • 全国健康保険協会「よくあるご質問:高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」
  • 全国健康保険協会「【制度改正】令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」

取り扱いは加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市町村国保・後期高齢者医療広域連合など)によって異なる場合があります。実際の手続きは、各保険者の窓口で最新の取り扱いをご確認ください。

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