無料低額診療とは|対象になる人・病院の探し方・薬局で使えない理由と生活保護との違い

高額療養費制度

無料低額診療事業は、社会福祉法が定める「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」です。この事業を行う病院・診療所に相談し、対象と認められると、施設が決めた方法で診療費が減額または免除されます。どの病院でも使えるわけではなく、実施している医療機関を探して相談する必要があります。また、院外処方で保険薬局に払う薬代は、この事業の減免の範囲に入りません。

この記事は、医療費の支払いが難しく受診をためらっている本人・家族と、病院の医事課や健康保険組合などで制度を案内する担当者に向けて書いています。「自分は対象になるのか」「どこに、どう相談すればよいか」「高額療養費や生活保護とどう使い分けるか」に順番に答えます。根拠には、厚生労働省の通知と統計を使っています。

無料低額診療事業の仕組み

無料低額診療事業は、社会福祉法第2条第3項第9号に定められた第二種社会福祉事業です。社会福祉事業は、利用者への影響の大きさによって第一種と第二種に分かれており、第二種は比較的影響が小さく、公的な規制の必要性が低い事業とされています。医療保険の給付のように全国どこでも同じ条件で受けられるものではありません。事業を行う医療機関が自分で減免の方法を決め、自分の負担で診療費を軽くする仕組みです。

国・都道府県以外の者が、住居を提供する施設を使わない第二種社会福祉事業を始めたときは、事業を始めた日から1か月以内に、事業を行う地域の都道府県知事に届け出なければなりません(社会福祉法第69条第1項)。事業の具体的な基準は、厚生労働省の局長通知(平成13年7月23日社援発第1276号)で決められています。

基準の項目(局長通知 第一) 内容
減免方法の明示(必須) 低所得者や要保護者など生計困難者を対象に、診療費をどう減免するかを決め、明示する
患者割合(必須) 生活保護を受けている人と、無料または診療費の10%以上の減免を受けた人の延べ人数が、取り扱った患者の延べ人数の10%以上である。計算期間は毎年4月1日から翌年3月31日まで(入院・外来を含む)
医療ソーシャルワーカー(必須) 医療や生活の相談に応じる医療ソーシャルワーカー(MSW)を置き、相談のための設備も備える
無料の健康相談など(必須) 生計困難者を対象に、無料の健康相談や保健教育などを定期的に行う(課長通知では、毎月1回程度の実施に努めるとされている)
選択項目 病院は、夜間・休日診療、特殊疾患患者の入院体制など6項目のうち2つ以上、診療所は、特別養護老人ホームなどの施設をあわせて経営しているか密接に連携していること、または夜間・休日診療のどちらかを満たす

この基準は病院・診療所ごとに当てはめます。同じ法人が運営していても、施設ごとに実施しているかどうかが違うことがあります。診療方針と診療報酬は健康保険法の例によるとされています。なお、局長通知は、無料低額診療事業を始めるための社会福祉法人の設立や定款変更の認可について、社会情勢の変化で必要性が薄れたとして抑制する方針も示しています。

誰が対象になるか:「生計困難者」の考え方

局長通知は、低所得者、要保護者(生活保護が必要な状態にある人)、行旅病人(旅の途中で歩けないほどの病気になり、療養の手段も救護してくれる人もいない人)、決まった住居がなく野外で生活している人などの「生計困難者」を対象に、診療費の減免方法を決めるよう求めています。

ただし、国の基準通知には「年収○万円以下」のような所得の数値基準は書かれていません。どの程度の収入なら無料か、何割の減額かは、各医療機関が定めた減免方法によります。減免の額は、診療施設が関係機関と協議して決めることになっています。

対象者に関する国の通知 示されている内容
平成13年7月23日 社援発第1276号(局長通知) 低所得者、要保護者、行旅病人、住居がなく野外で生活している人などの生計困難者が対象
平成17年3月8日 社援総発第0308001号 対象は広く生計困難者一般であり、生活保護を受けている人やホームレスに限られない。生計困難者であれば、人身取引の被害者やDV(配偶者からの暴力)の被害者なども積極的に対象とするよう求めている
平成30年1月18日 社援総発0118第1号ほか 生活保護を受けている人に限らず、生計困難者であれば積極的に対象とするよう、実施施設への周知・指導を求めている

自分が対象かどうかを判断するには、「収入が足りず、診療費を払うと生活が成り立たない」という状況を、実施施設のMSWに具体的に伝えるのが確実です。対象になるかどうかを決めるのは医療機関です。インターネット上の「目安」を見て自分で判断し、相談をあきらめる必要はありません。

実施している医療機関の探し方

実施施設の数は、厚生労働省の「無料低額診療事業等の実施状況の概要(令和5年度実績)」で745か所(病院374、診療所371)です。この数字は、令和7年6月20日時点で自治体から報告された実績を機械的に集計したもので、今後変わる可能性があると注記されています。数は限られているため、受診前に探しておくことが大切です。

  1. 都道府県・指定都市・中核市のホームページを確認する。厚生労働省は平成30年の通知で、管内の実施施設の一覧を都道府県などのホームページに載せるなどの方法で知らせるよう求めています。これは地方自治法にもとづく「技術的助言」で、法律上の義務ではありません。そのため、掲載の有無や載せ方は自治体によって違います。
  2. 医療機関に直接問い合わせる。同じ通知は、実施施設に対しても、無料低額診療事業を行っていることを周知するよう指導を求めています。電話で「無料低額診療事業を行っていますか」と聞き、医療相談室(MSW)につないでもらうのが早い方法です。
  3. 院内での薬の出し方も確かめる。同じ通知は、自治体が施設を周知するときに、院内で出した薬の費用も減免する施設であればその旨も示すよう求めています。薬代が心配な人は、一覧や施設の案内でこの点を確認してください。

相談から減免までの流れ

局長通知は、減免の手続きを次のように定めています。実際の手続きは施設ごとに違うことがあるので、必要な書類などは事前に施設に確認してください。

  1. 診療券を受け取る方法。通知では、施設が無料診療券・低額診療券を発行し、地域の社会福祉協議会などが保管して、必要な人に渡す仕組みが想定されています。施設は、この診療券を受け取って減免を行います。
  2. 病院で直接申し出る方法。診療券を持たない患者から減免の申し出があった場合は、MSWが相談に応じ、適宜減免の措置をとることになっています。あわせて、社会福祉協議会や民生委員と連絡をとり、以後は診療券で受診するよう案内するとされています。
  3. 減免額が決まる。減免の額は、施設が関係機関と協議して決めます。無料になるか、一部の減額になるかは、施設の減免方法と本人の状況によって変わります。

医療機関の担当者は、MSWの配置と、生活保護受給者・減免患者が延べ10%以上という割合が事業の要件になっている点を押さえておいてください。平成30年の通知は、この割合が10%未満の事業者に対して、基準を満たすよう努めることを十分に指導するよう自治体に求めています。また、平成17年の通知は、実施施設が不法滞在の状態にある人を治療(入院を含む)しても出入国管理及び難民認定法の違反にはならず、通報する義務もないとしています。

薬局では使えない点と、薬代の相談

無料低額診療事業の基準は「病院又は診療所ごと」に適用されます。平成30年の通知は、減免に含めてよい療養費について、「当該診療施設内で行った投薬に係る費用」も含めてよいと明確にしました。つまり、この事業で減免されるのは実施施設の中で出した薬までです。院外処方せんを持って保険薬局で支払う薬代は、この事業の減免の範囲に入りません。

令和5年度実績の集計では、無料低額診療の外来患者への薬の出し方は施設によって次のように分かれています。

外来患者への薬の出し方(令和5年度実績) 施設数
すべて院外処方 337か所
すべて院内で出す 182か所
患者の経済状況から薬代の負担が難しい場合は院内で出す 76か所
薬の種類によっては院内で出す 38か所
診療時間内は院外、時間外は院内で出す 56か所
その他 56か所

薬代が払えるか不安な場合は、受診の前か診察の前にMSWへ伝えてください。院内で薬を出してもらえるかどうかを含めて相談できます。院外処方が中心の施設でも、経済状況によって院内で出す運用をとっているところがあります。

高額療養費・生活保護との違い

3つの制度は、根拠になる法律も相談先も違います。どれか1つを選ぶものではなく、状況に応じて組み合わせたり、順番に検討したりするものです。

比較項目 無料低額診療事業 高額療養費 生活保護(医療扶助)
根拠 社会福祉法第2条第3項第9号(第二種社会福祉事業) 医療保険(健康保険・国民健康保険など)の給付 生活保護法
実施・相談先 届出をした病院・診療所(MSW) 加入している医療保険 福祉事務所
使える医療機関 実施施設だけ 保険診療を受けた医療機関・薬局 指定医療機関
軽減の中身 施設が定めた方法で診療費を無料または低額にする 医療機関や薬局の窓口で払った額が、年齢や所得に応じた上限額を超えたとき、超えた分が支給される 医療券・調剤券などで医療を受ける
薬局の薬代 院外の保険薬局の薬代は対象外 薬局の窓口で払った分も対象になる 指定薬局での調剤は調剤券で給付される

無料低額診療事業は、医療機関が自分で行う減免です。公的な給付ではないため、施設によって条件が違い、使える施設も限られます。高額療養費の所得区分や手続きは、低所得者向け限度額適用・標準負担額減額認定証の申請方法と所得基準で詳しく説明しています。

生活保護の医療扶助は、福祉事務所長に申請します。厚生労働省の「医療扶助運営要領」は、生活保護を受けていない人が医療扶助だけを申請する場合の手続きも定めており、申請書には社会保険の資格の有無なども書くことになっています。医療扶助と医療保険の給付の関係は、生活保護でも高額療養費は申請できる?給付順序と手続きを解説にまとめています。

病気が長引いて生活そのものが苦しい場合、無料低額診療事業は目の前の診療費を軽くするだけで、生活費は支えてくれません。実施施設のMSWは、生活上の相談に応じることも基準上の役割です。生活保護など、ほかの制度につなぐ相談もしてみてください。

よくある質問

Q. 収入がいくら以下なら対象になりますか?

A. 国の基準通知には、所得の数値基準は書かれていません。各医療機関が減免方法を定めて明示することになっているため、基準は施設ごとに違います。実施施設のMSWに、収入と支出の状況を伝えて相談してください。

Q. どの病院でも、頼めば診療費を減らしてもらえますか?

A. いいえ。この事業として減免を受けられるのは、事業を行っている病院・診療所だけです。基準も施設ごとに当てはめるので、同じ法人の病院でも、施設によって実施していないことがあります。受診前に自治体の一覧や施設の案内で確認してください。

Q. 生活保護を受けていない人も使えますか?

A. 使えます。厚生労働省は平成17年と平成30年の通知で、この事業は広く生計困難者一般を対象とし、生活保護を受けている人に限られないとして、積極的に対象とするよう求めています。

Q. 院外処方の薬代も無料になりますか?

A. なりません。通知で減免に含めてよいとされているのは、実施施設の中で出した薬の費用です。院外の保険薬局で払う薬代はこの事業の範囲外です。薬代が心配なときは、院内で薬を出してもらえるか、MSWに相談してください。

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まとめ

  • 無料低額診療事業は、社会福祉法第2条第3項第9号の第二種社会福祉事業です。届出をした病院・診療所が、自分で決めた方法で診療費を減額または免除します。
  • 対象は低所得者、要保護者、住居のない人、DV被害者などを含む生計困難者一般です。国の通知に所得の数値基準はなく、条件は施設ごとに決められています。
  • 実施施設は令和5年度実績で745か所です。都道府県などのホームページの一覧や施設への電話で探し、医療相談室(MSW)に相談します。
  • 減免に含められる薬代は院内で出した分までです。院外の保険薬局で払う薬代は対象外です。
  • 高額療養費は医療保険の給付、生活保護の医療扶助は福祉事務所が窓口の制度で、無料低額診療事業とは根拠も相談先も違います。状況に応じて組み合わせて検討します。

出典

  • 社会福祉法 第2条第3項第9号、第69条
  • 厚生労働省「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について」(平成13年7月23日社援発第1276号)
  • 厚生労働省「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について」(平成13年7月23日社援総発第5号)
  • 厚生労働省「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業における人身取引被害者等の取扱いについて」(平成17年3月8日社援総発第0308001号)
  • 厚生労働省「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業等に係る運用上の留意事項について」(平成30年1月18日社援総発0118第1号・老老発0118第1号)
  • 厚生労働省「無料低額診療事業等の実施状況の概要(令和5年度実績)」
  • 厚生労働省「生活保護法による医療扶助運営要領について」(昭和36年9月30日社発第727号)

取り扱いは加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市町村国保・後期高齢者医療広域連合など)によって異なる場合があります。実際の手続きは、各保険者の窓口で最新の取り扱いをご確認ください。

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